研究概要 |
大槌湾を三陸のモデル内湾として、水温変動予測モデルを開発することを目標とする。まず、1978年から1999年までの22年間に蓄積された気象・海象資料を用い、海面を通しての熱収支の変動特性を調べた。その結果、1)海面熱収支は1987,88年を境にして明確な差がみられた。すなわち80年代半ばまでは、大槌湾は海面を通して暖められていたのに対し、90年代以降は冷却される傾向にあった。この近年の冷却傾向の要因は夏季における日射量の球少と冬季における風速の増大によるものと解釈できる。一方、熱含有量の時間変化には明瞭な経年変化は見られない。このことは、海面を通しての熱収支の過不足を湾口過程が補っていることを意味する。とくに近年、冬季に強い西風の吹く頻度が高く、湾内表層の冷たい水が湾外へと運ばれ、やや暖かい外洋水と交換するプロセスが考えられる。もう一つの要因はイベント的に発生する暖流系の海水の浸入である。そこで、湾内中央付近の七戻崎に水温モニター監視のためのシステムを設置した。これと、東京大学海洋研究所国際沿岸海洋研究センターが設置しているブイシステムで得られる水温資料をあわせて解析し、外洋水の浸入プロセスを調べることとした。現在この両システムが稼働中である。2)海面熱収支の経年変化についてスペクトル解析により調べたところ、約4年周期の変動が卓越することがわかった。一方、赤道太平洋に発生するENSO現象は3-4年周期の変動特性をもつ。そこで、ENSO指標と海面熱収支の変動と比較したところ、とくに80年代において関連性が示唆された。しかしながら、1987,88年を境に見られた海面熱収支の明瞭なジャンプについては、ENSOでは説明がつかず、むしろAOインデックスとの関連性が強いようであるが、これらについては、引き続き検討を加える。
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