研究概要 |
本年は、基本データの入力をしつつ、部分的な成果を論文として公表した。 下記第一論文「日本漢音における止攝合口字音の受容に見られる位相差」は、諸資料における位相差を見せる一事象について、調査した結果を発表したものである。 院政期以降、止攝合口字にスヰ等の仮名が付されることがある。第一論文では、その実態を調査し、それらが、中国漢字音の高度な学習に裏付けられた規範的な表記であることを述べた。また、同時に、日常的な漢字音にあっては、文字通り、スイ・ツイと発音されていたであろうと推測した。 下記第二論文「金沢文庫本『群書治要』と久遠寺蔵『本朝文粋』との漢字音の比較」および第三論文「久遠寺蔵『本朝文粋』鎌倉中期点の漢音声調-金沢文庫本『群書治要』鎌倉中期点との比較を通して-」は、本研究の中心資料の一つである久遠寺蔵『本朝文粋』の音形と声調とを、これも本研究の中心資料の一つである金沢文庫本『群書治要』と比較したものである。 この二論文では、同じ鎌倉時代の加点でありながら,音形と声調との両面で、『本朝文粋』では『群書治要』よりも、日本語化が進んでいることを明らかにした。 両文献は、共に清原教隆の訓点を反映している。したがって、両者における漢字音の差は、漢籍訓点資料と和化漢文訓点資料との差であると考えられた。 本年度の研究によって、「鎌倉時代における日本漢字音の位相的研究」と題した本研究が、予想通りの成果を挙げうる見通しが立った。
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