研究課題/領域番号 |
16520411
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研究機関 | (財)元興寺文化財研究所 |
研究代表者 |
近藤 正子 (金山 正子) (財)元興寺文化財研究所, 研究部・記録資料調査研究室, 総括研究員 (20311491)
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研究分担者 |
小村 真理 (財)元興寺文化財研究所, 研究部・記録資料調査研究室, 主任研究員 (10261215)
井上 美知子 (財)元興寺文化財研究所, 研究部・保存科学研究室, 主任技師 (70223279)
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キーワード | 近現代図面資料 / 図面用紙 / 記録素材 / 没食子インク / インク劣化 / 紙の酸性劣化 / キレート剤 / 彩色顔料 |
研究概要 |
本研究は、日本において明治以降に作成され始めた近現代図面資料の歴史的変遷を把握し、その劣化状況および素材を確認し、劣化抑制の具体的方法を開発することを目的としている。 まず図面用紙に多用されているトレーシングペーパーの劣化促進実験を行った結果、通常の上質紙に比べて茶変色や硬化が顕著にみられた。これは、インクなどのにじみ止めに使われている酸性サイズ剤の影響によるものとおもわれるが、今後は酸化による生成物の分析を進めその原因を確認したい。 記録素材では、ブルーブラックインクなどの没食子インク(Iron gall ink)が、深刻な劣化症状を呈している。没食子とはブナ科植物の若芽にできるこぶでタンニンを多く含み、鉄硫酸塩・ゴム・水などを配合してインクが作られており、鉄分の酸化が進行することによりインクの茶変色、裏面への移り、インク部分の硬化、結晶化、亀裂、欠落などの劣化症状が顕著になっている。インク書き資料の劣化症状を確認するために、明治期のインク書き資料である南方熊楠の「ロンドン抜書」の状態調査を行った。インクの結晶化部分を成分分析したところ硫酸アルミニウムが検出され、用紙の酸化にともなうサイズ剤(硫酸バンド)の影響が考えられる。インク劣化の将来的な予測の方法として、鉄イオン試験紙を使用したFe^+の確認を行い、金属イオンの封鎖剤であるキレート剤としてフィチン酸塩カルシウム水溶液の使用を検討した。 今後は、インクの劣化抑制に使用する薬品の選定と、用紙の酸性劣化とインクの劣化の相関性を、それぞれに成分や性質に視点を払いながら分析を進める。さらに、図面に使用されている彩色顔料、絵具の劣化についても同様に用紙の劣化との相互作用を観察・分析する。
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