昨年度、動学分析の基礎となる資源経済モデルの構築と資本蓄積過程の分析を行ったが、今年度はそのモデルを用いて、当該経済の資源保有量が必要最小限度を割り込むと言う意味で破滅する確率に関する命題を打ち立てることができた。また、それらの命題を成立させるための十分条件を満たす確率分布関数の例を見つけることができた。 本研究では、資源ストックの大きさが、時間の経過とともに連続的に変化するような不確実性ではなく、時たまある程度の大きさのジャンプを示すような場合を考えているが、初年度の研究で、ポワソン過程を導入してモデルを構築し、昨年度は資源採掘量や財の消費量など、各種の経済変数がどのように変化するかを分析した。今年度は、最終的に資源ストックがゼロあるいは最低限必要なある正の値を割り込む確率、あるいは反対にいつまでたってもそのような値を割り込むことがない確率について検討した。また、単一の資源ストックを複数の採掘/採取者が利用することを想定し、彼らが協調して採掘に当たる場合と、非協力的な採掘を行う場合とで、最適資源採掘量や消費量がどのように異なるかを比較した。 採掘あるいは採取された再生可能資源と物的資本を投入して複合財をつくり、その一部を消費して残りを用いて物的資本蓄積を図るというモデルと、資源ストックが予期せぬ経済事象により突然増加または減少することをモデル化するポワソン過程を組み合わせることの帰結として、将来のある時点で突然、資源ストックが底をつく可能性が考えられる。複合財を生産するために資源が不可欠であるという仮定を置けば、その時点以降はこの経済の消費量はゼロになる。もちろん、一度物的資本蓄積として経済に蓄えられた資本ストックを再び消費財として人々が直接口にすることができるとした場合には、資源ストックの枯渇と同時に経済が破滅するわけではないが、本研究ではそこまで分析を拡張することはできなかった。 昨年度末に得られた結果のうち、有限期間内にストックが枯渇する確率が、絶対に1にならないための十分条件、について今年度新たに以下の成果を得た。本研究では、ストックのジャンプを表す変数として、ジャンプの絶対量ではなく、現存ストックに対するジャンプ後のストックの比率をもってジャンプ・サイズを表している。そのサイズをzで表すと、zが-1/2より小さい確率はゼロ、-1/2と0の間は、傾き2の直線、0以上は指数関数的に減少または傾き-2/3で直線的に減少し、3/2以上はゼロとなるような密度関数を想定すれば、当該資源経済の破滅確率が1にはならないことを証明することができた。
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