研究概要 |
本年度は,健常成人および健常な児童を対象とした自閉症スペクトラム傾向の測定と,自閉性障害圏(自閉性障害,アスペルガー障害,PDDNOS)とDSM-IVの基準にもとづいて精神科医によって診断された知能が健常範囲の成人と児童を対象とした自閉症スペクトラム傾向の測定を実施した,また,併せて,自閉症のExtreme Brain Theoryに対応するE-S Theoryにもとづいた2つの因果認知的傾向empathizingとsystemizingについても,その個人差を測定する目的で作成された尺度について,オリジナル版をもとに日本語版を作成し,標準化を行うとともに,これらの尺度を,上記の対象のうちの成人群(健常者と自閉性障害者)に実施し,その妥当性を検討した.その結果,自閉症スペクトラム傾向については,児童,成人ともに,臨床群(自閉症スペクトラム群)と健常群の分布が大きく異なり,実質上ある得点水準で2群に分かれること,また,健常児・者群では,自閉症スペクトラム上の個人差が正規分布し,個人の適応状態の予測に有効性を持っ可能性が示唆されるとともに,自閉性障害のアナログ研究が,児童・成人ともに可能であることが示唆された.また,empathizingとsystemizingについては,成人についてのみではあるが,自閉症スペクトラム傾向と同様に,2つの次元で臨床群と健常群で得点分布が乖離することが示され,自閉症スペクトラム群のsystemizing傾向の優位性とempathizing傾向の脆弱性が明らかになった.この傾向は,E-Sモデルにおける理論的仮説と一致していることから,この2つの因果認知的傾向が自閉症スペクトラム研究上妥当な指標であることが確認された.また,健常者群では,この2つの次元上の得点分布が,ほぼ正規性を示したことから,一般健常者についてもE-Sモデルに基づいた個人差研究が可能であることが示唆された.なお,これらの研究成果については,現在複数の国際誌(英文)に投稿中である.
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