研究概要 |
登場人物の表情の変化などの視覚的手がかりによって他者の心的状態を判断する心の理解課題(視覚的心の理論課題)と,登場人物の発話のイントネーションなどの聴覚的手がかりによって他者の心的状態を判断する心の理解課題(聴覚的心の理論課題)を,健常者と知的水準の対応した広汎性発達障害者を対象に実施した。またそれとは別に,Empathizing-Systemizing(E-S)理論(Baron-Cohen,2002)に基づく2つの基本的な因果認知の指向性を測定する「EQ/SQ」を一般大学生,有職者,知的水準が健常範囲の広汎性発達障害者に実施した。 その結果,まず,視覚的・聴覚的心の理論課題の成績では,健常者群では,同一場面での課題の成績を比較することによって,視覚的手がかりによる他者の心的状態の判断の方が聴覚的手がかりによる判断よりも容易であることが明らかになった。また,聴覚的心の理論課題では,女性の方が男性に比べて統計的に有意に得点が高いことが示された。なお,現時点では,広汎性発達障害者群については実験が継続中であるため,両課題の成績については明確な結果は明らかではない。 次に,EQ/SQの結果では,健常群は,Empathizing, Systemizingともに得点は正規分布するものの,Empathizingでは女性の得点が有意に高く,Systemizingでは男性の得点が有意に高いという性差が確認された。そして,EQとSQの得点にもとづくBrain typeの出現頻度では,男性にS type,女性にE typeが多いことが明らかになった。これに対して広汎性発達障害群では,Empathizingでは低得点側に,Systemizingでは高得点側に得点分布が偏っており,Brain typeの出現率は,S typeが圧倒的に多く,E typeはいなかった。この特殊なBrain typeの出現パターンは,健常群とは統計的に異なるものであり,E-S理論に一致するものであった。
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