研究概要 |
本研究の目的は,民主的な資質を育成するために、中学校数学科の論証指導カリキュラムを開発し、開発されたカリキュラムに基づく指導の有効性を実証することである。 この目的の達成に向けて,平成16年度には,主に次の2点について成果をあげた。 先行研究における論証の社会的価値の特定 ギリシャ時代,論証という活動は民主的な資質を育成するものとして位置づけられていた。そこで,数学教育における論証の社会的な価値を民主的な資質の育成に求め,民主的な資質と論証の有機的な関係を明らかにしようとした先行研究として,Fawcett (1938)による「The nature of proof」をレビューした。その結果,論証の社会的価値として批判的思考critical thinkingの育成に着目し,当時の中等学校で社会的な場面が組み込まれた論証指導がなされていたことがわかった。 命題の局所的組織と現実の関係についての子どもの認識状態の設定 数学では、「上」に命題を積み上げる活動/「下」へ前提を探り整える活動(公理化)/「横」へ補題等を演繹する活動が並行して展開され,命題が局所的に組織化されてきた。こうした命題のダイナミックな組織化を数学教育にいかすためには,命題の組織化と現実の関係についての子どもの認識状態をとらえることが必要である。 そこで,命題の全称性の規準である,現実との対応性を直接的対応性と間接的対応性に区別し,直接的対応性に対する間接的対応性の優位性が認識論的な意義を有することを考察した。そして,中学校数学図形領域において,命題の局所的組織と現実の関係についての子どもの認識に,演繹の基になる諸命題の特定及び直接的対応性に対する間接的対応性の優位性から4つの状態を設定した。
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