研究概要 |
本研究の目的は,民主的な資質を育成するために、中学校数学科の論証指導カリキュラムを開発し、開発されたカリキュラムに基づく指導の有効性を実証することである。 平成18年度は,民主的な資質を育む論証指導カリキュラムを開発するために,理論的な枠組みの構築として,次の2点に取り組んだ。 ●数学における「定義」と,民主的な社会における「規範」の概念分析 数学において,「定義」は論証の前提として次の特性を有する:明確性,整合性,構成可能性,相対性。一方,民主的な社会における「規範」は,「判断・評価または行為などの依るべき基準」であるとされ,民主的な社会の維持・発展にとって,「規範」が「定義」と同様の諸特性を有していることが必要である。特に,数学においても民主的な社会においても,「定義」と「規範」は,既成的かつ変更不可能なものであってはならず,むしろ,諸目的に応じ構成可能なものであり,説明や証明という活動において帰結の正否に対して相対的なものでなくてはならない。 ●民主的な社会における「規範」に対する理解水準に関する考察 「規範」に対する理解水準として,コールバーグの道徳性発達理論に着目した。この理論では,3つの水準が設定されている:水準I前慣習的水準,水準II慣習的水準,水準III脱慣習的水準。水準IIでは,個人間の調和や社会システムの維持のため,規範は固定的なものとして理解される。これに対し,水準IIIでは,社会的契約や倫理的原理に従って,規範が可変かつ相対的なものであるという理解が進む。
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