本年度の研究成果は、次の二つにまとめることができる。 1.多次元空間における単独双安定な反応・拡散・対流方程式を、時空間の双曲型スケーリングによって特異摂動型問題に帰着させ、その特異極限における遷移層の挙動と界面運動方程式を導出した。このスケーリングが有効であるのは、球面上で定義された方向に依存する進行波の速度が殆どいたるところ消えない場合であり、その場合には解はバルク領域では漸近的に2-値階段関数に収束し、二つのバルク領域へ隔てる界面の運動方程式(界面方程式)の第一次近似は界面の法ベクトルのみによって決定されることを見出した。次に、進行波速度が球面土の全ての点において消えている場合には、元の方程式に放物型の時空間スケールを適用し、土とは別の特異摂動問題に帰着させた。この問題に対しても特異極限解析を行い、遷移層の詳細な漸近的構造を明らかにすると共に、界面の運動が重み付き平均曲率流に支配されることを見出した。この重みは、反応拡散過程からの寄与である通常の平均曲率と、対流項に起因する界面の重み付き主曲率の両方を含んでいる。方程式のレベルでは1階作用素である対流項が、特異極限においては界面の主曲率(2階微分作用素)の形でダイナミクスに影響を与えることは、驚きであると共に非常に重要であると思われる。さらに、反応過程と拡散過程の下では不安定な定常界面が、対流効果によって安定化する可能性を示唆する結果も得られつつある。 2.1次元空間における一般の(擬)反応拡散系に対して、二つの周期構造(周期的進行波解)間の遷移現象の出現とその堅牢性や一般性に関する考察を行った。この部分に関しては、まだ最終的な成果が得られていないが、ここで用いられる理論と手法を応用して、微分型非線形シュレディンガー方程式に対する新規の進行パルス波解や進行周期波解の存在と安定性の研究を推進中である。存在に関しては、ほぼ最終的と呼べる結果が得られ、現在その結果を出版するべく準備中である。安定性については、新たな理論の枠組と手法の開発が必要とされると思われ、今後の大きな課題の一つである。
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