研究概要 |
本年は研究課題の最終年度ではないので,研究代表者の研究実績について報告する. [1]は数理物理にあらわれる多くの(常及び偏)微分方程式を扱った図書で,海外共同研究者I.トルシンとの共著である.最終章でスツルム-リュウビル作用素の逆スペクトル問題をていねいに解説したが,これは日本語の著書では初めての試みで,今後この分野の研究に対する数少ない入門書と期待される. [2]は波動方程式の外部境界値問題の研究である.中尾愼宏との共同研究で,任意のコンパクトな傷害物の外部での波のエネルギーが,遠方で線形に近い摩擦項ももとで,時間と共に減衰することを示している.外部問題での結果はこれまで知られていなかった.エネルギー減衰に関する1つの目安を与えるものである. [3]は長年研究対象にしてきた振動型遠距離ポテンシャルを伴うシュレヂンガー作用素のスペクトルに関する研究である.この作用素の短距離型摂動に対して極限吸収の原理を明快な手法で証明した.この手法は内山 淳と共同研究を進めている遠距離型の摂動についても応用可能と思われる. [4]はI.トルシン及びウクライナ科学アカデミーのV.マルチェンコとの共同研究で,グラフ上のシュレヂンガー作用素に対して,その固有値,重み数,散乱行列からポテンシャルを一意に決定しようという,所謂,スペクトル・散乱逆問題を考察している.この分野の研究は数多くあるが,ゲルフアント・レヴィタン・マルチェンコの変換作用素を経由する自然な手法はまだ成功しておらず,この論文はその第一歩である. [5]その他に時間依存を含む変数係数の波動方程式やシュレヂンガー方程式の散乱問題(逆問題を含む)について,最近納得できる結果を得ることができた.論文としてまとめているところである.
|