自己変調過程とは、過去の変位の履歴の移動平均値に、乗算型のノイズを付加し、さらに、加算型のノイズを加えて時間発展した変位の値を計算するランダムな確率過程である。このモデルの最も基本的な場合に関して、変位がベキ分布にしたがうこと、パルスの時系列に対しては1/fスペクトルが現れることなどを既に示している。この数理モデルは、自動的に臨界的な特性を生み出す一般性の高い確率モデルである。 このモデルの基礎的な性質を調べるため、数値解析を進めた。その結果、移動平均の形に依存しない形で、かなり一般的に、最も基本的な場合と同じようなベキ分布などの性質が見られることが確認できた。また、スカラー量に限らず、ベクトル量でも、あるいは、マトリックスのような場合でも、同じような統計性を示す結果が得られてきている。すなわち、移動平均値にランダムな乗算ノイズを付加するような効果によって、非常に一般的に臨界的な振る舞いが見られることが期待される。 自己変調過程の応用としては、市場の取引の発生過程のモデルが先駆的であるが、市場価格の変動そのものに関しても適用できることがわかってきた。また、インターネットにおける情報流のトラフィックの増減も自己変調過程によって近似できることがわかってきた。脈拍の間隔のゆらぎに関するモデルとしても有効であると期待されている。複雑なシステムおいて1/fスペクトルを出す現象が広く見出されているが、自己変調過程はその理論的な根源になる可能性もあると期待される。
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