過去の変位の履歴の移動平均値に乗算型のノイズを付加し、さらに、加算型のノイズを加えたランダムな確率過程である自己変調過程に関連した現象の解析を進め、特に、市場価格の変動の解析に応用した。 円ドルレートの高頻度データに関して、まず、最適移動平均を導入して独立無相関なノイズ成分を取り除き、次に、スーパー移動平均と名づけた大きなスケールの単純な移動平均をこの最適移動平均の変動に適用し、両者の差を観測した。その結果、これらの移動平均の差と市場価格の変動に自明でない相関が見出されることを明らかにした。この相関は正の相関を持つ場合と負の相関を持つ場合があり、それぞれの効果は引力あるいは斥力のポテンシャル力として表現できることがわかった。このポテンシャル力は数時間程度の時間スケールで変動しており、また、ニュースなどの外乱に反応して速やかに変化することも確認された。数年分の全データで平均するとこのポテンシャルはほどんど0になり、これまでの金融工学などの研究結果とは矛盾しない結果になっている。 また、コンピュータの中に仮想的な市場を想定するディーラーモデルの解析によって、ディーラのどのような特性によよって、上記のようなポテンシャルが形成されるのかをシミュレーションによって明らかにした。市場の売買取引の一般的なメカニズムによって引力のポテンシャルが生じ、ディーラーの集団心理として市場価格のトレンドを追随する効果によって斥力のポテンシャルが生じることがわかった。
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