ガランタミンは強力なコリンエステラーゼ阻害活性をもつことからアルツハイマー病治療薬として欧米で発売され、工業的合成法の確立が急がれている。 筆者は、ガランタミン合成の鍵反応となるカップリング反応を従来法に比べて効率的で、しかも、低公害で環境と作業者にも優しい合成法を確立することを目指して検討した結果、昨年度の研究において(-)-ガランタミンの不斉合成を達成することができた。本合成法には光学活性アミノ酸を不斉補助基とする遠隔不斉誘導法を考案し、不斉収率の面では完璧な結果(100%ee)が得られた。しかし、化学収率の面では鍵反応である酸化的フェノールカップリング反応が低収率となり、この収率改善を各種誘導体を用いて検討した。本反応の化学収率はアミノ基の保護基の種類により変動することから各種保護基を用いて反応を検討した結果、TFA基(61%)、Ts基(78%)、TBDMS基(60%)が比較的高収率であった。しかし、Ts基を用いた反応生成物は目的物であるガランタミンへの変換が困難であったことからTFA基が最も優れた保護基であることが確認された。 上記の遠隔不斉誘導法は反応の工程数が増える欠点もあり、ラセミ体から直接光学活性体を得る不斉変換法を検討した。従来法では強い皮膚アレルギーを示すナルウェジンの不斉晶出法が使用されているが、本研究では各種の光学活性塩基を触媒とした新規不斉合成法を検討した。筆者らの合成中間体はナルウェジン構造に水酸基を余分に付けることによりアレルギーを予防できると予想していたが、本化合物でも研究者にアレルギー症状が発生したため本研究は断念した。そこで、上述の合成法をヒガンバナ科アルカロイド類であるクリニンの合成に適用したが、現在のところ良い結果は得られていない。
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