硫酸化グリコサミノグリカンは、様々な細胞増殖因子や細胞外マトリックス成分と相互作用し、細胞接着、移動、増殖、分化、形態形成といった様々な細胞活動を制御している。これら硫酸化グリコサミノグリカンの機能発現は、生合成によって厳密に調節されていると考えられてきた。最近になって我々を含む複数の研究グループによって、硫酸化グリコサミノグリカンの生合成に関与する糖転移酵素や硫酸基転移酵素遺伝子が殆ど同定された。本年度は、ヘパラン硫酸鎖の生合成に関与する糖転移酵素遺伝子が欠損した培養細胞変異株を用いて、硫酸化グリコサミノグリカンの中でも特に特定な構造を持つコンドロイチン硫酸がヘルペスウイルス感染に関与することと、Drosophilaにおけるヘパラン硫酸鎖の生合成機構を明らかにした。 1)ヘルペスウイルス感染に関与するコンドロイチン硫酸鎖の解析 以前より、ヘパラン硫酸鎖がヘルペスウイルスの初期感染に関与していることが報告されていた。しかしながら最近、ヘパラン硫酸鎖を欠損した細胞にもヘルペスウイルスが感染する例が報告された。そこで、我々はL細胞の変異株でヘパラン硫酸鎖を欠損しているが、ヘルペスウイルスに対して感染性を示すgro2C細胞を用い、どのような物質が細胞表面のウイルス受容体になっているのかをしらべた。その結果、コンドロイチン硫酸鎖が受容体として機能し、特にコンドロイチン硫酸-Eと呼ばれる高硫酸化したタイプのコンドロイチン硫酸が、ウイルスとの結合に重要であることを明らかにした。興味深いことに、ヘパラン硫酸鎖の存在する細胞へのヘルペスウイルスの感染でも、コンドロイチン硫酸-Eはヘパラン硫酸よりも低濃度でウイルス感染を阻害できることが判明した。 2)Drosophilaにおけるヘパラン硫酸の生合成機構の解明 Drosophilaでは、ヘパラン硫酸の生合成に関与する糖転移酵素として、ttv、sotv、botvの3つがクローニングされ、これらの変異体では、ヘパラン硫酸が劇的に減少し、morphogenのシグナル伝達や分布が異常となる。今までに、我々は、BOTVがGlcNAcを転移する活性をもつことを明らかにしていた。しかし、TTV、SOTVは、in vitroにおいて糖転移活性が検出されておらず、Drosophilaのヘパラン硫酸鎖の生合成機構は解明されていなかった。そこで本年度は、Drosophilaのヘパラン硫酸の生合成機構を明らかにしようと試みた。TTV、SOTVおよびBOTVを分泌型タンパク質として、単独あるいは共発現させ、単糖転移活性および重合化活性を測定したところ、TTVとSOTVを共発現させた複合体が、ヘパラン硫酸鎖の重合化活性を保持することを明らかにした。さらに、Drosophilaではヒトとは異なり、BOTVによる結合領域への最初のGlcNAcの転移が、ヘパラン硫酸の伸長に必須であることを明らかにした。
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