研究概要 |
モルヒネの薬効には大きな個人差が認められ、モルヒネの薬物体内動態や薬力学に関する臨床薬理学的検討を通し、適正使用への応用が求められている。我々はモルヒネ投与中の癌患者においてM-3-G/モルヒネ(M)及びM-6-G/M血中濃度比率が10倍以上の個人差を認め、モルヒネ主代謝酵素であるUGT2B7の遺伝子多型の関与が示唆された。また、モルヒネの脳血管関門に存在するp糖蛋白遺伝子MDR-1や脳内オピオイドμ受容体遺伝子OPRM1における遺伝子多型(118A>G)について文書による同意を得た45名の癌患者で検討した。このうち12名(平均年齢65.8歳:平均体重:54.4kg)においてモルヒネ及び代謝物血中濃度の測定を実施した。OPRM1のホモ変異型であるG/Gが4名〔投与量:27.5±9.6mg/day (mean±SD)、血中モルヒネ(M)濃度:6.1±6.5ng/mL, M6G/M:7.9±4.1〕、ヘテロ変異型A/Gが4名〔投与量:32.5±18.9mg/day、血中モルヒネ(M)濃度:5.4±2.9ng/mL, M6G/M:8.4±3.0〕、野生型A/Aが4名〔投与量:142.5±149.7mg/day、血中モルヒネ(M)濃度:28.3±28.7ng/mL, M6G/M:6.0±1.5〕であった。臨床効果ではOPRM1のG/Gにおいて強い吐気や強い眠気などの副作用が認められたが、野生型A/Aにおいてはモルヒネ投与量が多いに関わらず、副作用はほとんど認めなかった。MDR1とOPRM1の多型には関係を認めなかった。モルヒネの臨床効果には脳内オピオイドμ受容体遺伝子多型が大きく関与している可能性が示唆された。
|