STZ糖尿病モデルを使用した研究により、同モデルにおける過食、糖代謝異常はインスリンよりもむしろレプチン機能異常によること、またその中枢作用不全が主体である可能性をみいだした。この知見をきっかけとして、レプチンによる中枢性糖代謝改善作用の特異性とその作用を担う分子について検討した。レプチンは、摂食量や血中インスリン量とは無関係にSTZ糖尿病ラットの血糖を正常化した。その作用は、肝臓での糖新生や糖輸送蛋白の遺伝子発現の制御と末梢臓器での糖利用の亢進、また白色脂肪組織における脂肪分解、褐色脂肪組織でのUCP発現の亢進など、末梢のエネルギー代謝調節機構とも密接に関係している。事実、中枢性抗糖尿病作用の少なくとも一部は、交感神経を介した作用であることが判明した。 我々は、レプチンの中枢作用を担う分子として、以前から神経ヒスタミンに注目している。またレプチンの下流で働く摂食抑制作用をもつ因子としてCRHがあるが、これらは摂食抑制作用を発揮するだけでなく、交感神経機能亢進作用を介して末梢のエネルギー代謝調節を行っている。今回の実験で、これらの因子がレプチンの中枢性抗糖尿病作用の一翼を担っている可能性を指摘した。一方、消化管由来の摂食調節因子であるグレリンは食欲を亢進させるとともに交感神経活動を抑制し脂肪蓄積を促進する。STZ糖尿病マウスでは、グレリン機能が著明に亢進しているが、それもレプチンの機能不全による2次的な変化として説明できる。事実、レプチンの投与は、摂食量やインスリン値の変化とは独立してグレリンの過剰発現を抑制し、STZによる糖尿病状態を改善した。このように「レプチンによる中枢性糖代謝改善作用」には、グレリンのような末梢性摂食調節因子の制御も含まれている。今後、レプチンを中枢に効率よく運ぶシステムが開発されれば、1型糖尿病患者の治療薬としても期待できるはずである。
|