研究概要 |
外科的切除を受けた肺癌350例の腫瘍組織および近接正常組織(ホルマリン固定パラフィン包埋ブロック)よりDNAを抽出した。抽出したDNAの内、腫瘍組織由来DNA150検体、正常組織由来DNA150検体をbisulfite処理し、MethyLight法によりp16,hMLH1,APC,MGMT,DAPK,MYOD1,TIMP3のプロモーター領域におけるDNAメチル化を定量した。腫瘍組織(T)と正常組織(N)におけるそれぞれの遺伝子のメチル化はp16,MYOD1,TIMP3において有意に腫瘍組織で高値であった。一方、MGMT, DAPKでは正常組織において有意に高値であった。APCのメチル化はT, N間に差を認めなかった。microsatellite instability(MSI)陽性癌の主因と考えられているhMLH1のHMはほとんど認められなかった。マイクロサテライト解析においても解析した80例中にMSI陽性の腫瘍は認められず、日本人の肺癌発症にはhMLH1 HMとMSIは関与していないと考えられた。腫瘍組織でのメチル化と臨床病理学的因子の関連を検討すると、p16のメチル化は有意に男性および扁平上皮癌に多く、一方APCのメチル化は腺癌で有意に多かった。予後との関連を検討すると、p16,APC,MYOD1のメチル化がそれぞれ予後不良な因子であった。予後因子としての意義をさらに検討する目的で90例の追加検体でp16,APC,MYOD1のメチル化を定量した。合計240例の検討に置いてp16,MYOD1のメチル化は予後不良因子であると確認された。以上の結果から、肺癌の予後因子としてP16,MYOD1のメチル化を利用できると考えられた。また、P16,APCのメチル化は病理組織学的な特徴と関連し、肺癌の個性診断に応用可能であることが示唆された。
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