脳虚血後の神経細胞死はネクローシスとアポトーシスによりもたらされる。ネクローシスは、ミトコンドリア機能の低下に伴うエネルギー障害が本態である。一方アポトーシスはミトコンドリア膜電位の低下に伴うチトクロームcの遊出により引き起こされる。このように、ミトコンドリアの機能異常は虚血性神経細胞障害の拡大に大きく関与しているが、ミトコンドリアの保護を目的とした治療法は試みられていない。ミトコンドリアは過剰な細胞内カルシウムをup takeする細胞内器官であるため、虚血によりカルシウムが細胞内に流入するとミトコンドリアは急速に膨化する。細胞内へのカルシウムの流入を減少させ、ミトコンドリアの機能障害を軽減することが重要である。 本研究では、虚血時のミトコンドリア電位の変化をミトコンドリア電位感受性色素(JC-1)を大脳皮質内に注入し測定した。キセノンランプで490nmの青色光を2秒間脳表に照射し、ミトコンドリア内に集積した色素を励起させ、その蛍光強度からミトコンドリア電位を算出した。その結果、ATP合成酵素阻害薬を投与した群では、脱分極中のミトコンドリア電位は大きく減少したが、細胞膜電位は比較的保たれていた。このことより、ミトコンドリアは虚血中にATP合成酵素を逆転させATPを消費し、細胞膜電位を減弱させることがわかった。次に、脳梗塞モデルを用い、塩化コバルト(静脈内投与)の効果を検討した。脳表に紫外線を照射し、NADH蛍光を観察して、ミトコンドリアがエネルギー障害に陥っている領域を観察した。塩化コバルト投与によりNADH蛍光領域が減少し、ミトコンドリアのエネルギー状態が改善することがわかった。
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