研究概要 |
アンドロゲン感受性前立腺癌細胞であるLNCaP細胞をTNFαで長期刺激することにより樹立したアンドロゲン高感受性前立腺癌細胞であるLN-TR2細胞におけるアンドロゲン感受性増強の機序について検討し以下の結果を得た。 (1)LN-TR2細胞と親株であるLNCaP細胞のARDNA配列に相違はなかった。 (2)ARの蛋白量についてはLN-TR2細胞ではDHT刺激後の核内AR蛋白量が著明に増加していた。 (3)ARの転写活性を修飾する8つの共役因子(coactivator 7つ、corepressor 1つ)の発現を両細胞間で比較すると、ARの転写活性を増強するARA55、TIF2の発現増強がLN-TR2細胞においてみられた。このARA55、TIF2の発現増強はLNCaP細胞をTNFαで短期間刺激した場合には見られなかったため、長期間のTNFα刺激によりこれらの発現が増強されたものと思われた。 (4)臨床検体において同一症例でホルモン療法前(ホルモン感受性癌)と再燃後(ホルモン抵抗性癌)の組織が得られた症例において、前立腺癌組織におけるこれらのAR coactivatorの発現を免疫組織で調べた結果、再燃に伴いARA55の発現増強を認めた症例が6例中2例に認められた。 (5)TNFαがホルモン抵抗性に関与している可能性が考えられたため、転移を有する進行前立腺癌血清中のTNFαをELISAで測定した結果、再燃癌症例(10例)で平均2,53pg/ml(SD 5.44)、非再燃例で平均0.49pg/ml(SD 0.25)であり、再燃癌症例で有意に高値であった(p<0.01l)。 結論 TNFαは再燃癌症例で上昇しており、TNFαの長期刺激により前立腺癌細胞がアンドロゲンに対し高感受性となり得る。その機序としてアンドロゲンによる核内AR量の増加、AR共役因子の発現増強が考えられた。
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