アドボカシーという概念が日本に紹介されて久しいが、保健・医療・福祉・法律の分野においてさまざまな使い方がなされ、使い方についても定まっていない現状がある。本研究は、看護学研究者のGadow.S.(1990)「クライアントの自律性を高め自身の価値の表出を支援するような専門職者のかかわり」、J.W.Zerwekh(1992)「自己決定に関する患者の権利を促進する過程」という定義に注目し、日本の行政保健師の地域看護活動を「保健師アドボカシー」として体系化を試みるものである。本研究の最終目的は、虐待事例に対する保健師のアドボカシー機能をその実態から明らかとし、保健師アドボカシーの概念構造を明らかとし保健師活動モデルを構築することである。 研究初年度は文献検索を行い、アドボカシーの先行要件として、ホームレス、妊娠中の虐待、過疎地の高齢者といった健康生活を自らの資源のみでは獲得・維持することのできない「健康弱者」の存在が明らかとなった。 研究2年目から3年目は、疫学倫理審査委員会の承認を得て、 研究1として、大都市圏保健所保健婦に子ども虐待事例のアドボカシーについてフォーカスグループインタビューを実施した。質的に分析した結果、語られた事例は、家族に健康問題(感染症やアルコール依存、精神疾患など)が存在すること、両親間のDV(ドメスティックバイオレンス)、被虐待が虐待する親となった事例、外国人母子事例、異父家族や違和感のある家族があげられた。保健師アドボカシーに関しては、マインドと支援行動に分類された。マインドは「事例への思い入れ」「先を見越した予防的な支援」「家族全体をみる」「回復を信じる」「連鎖のストーリーをたちきりたい」があげられた。支援行動は、「かかわり続ける」「明確化する」「子どもを守る」「子どもを守る大人を登場させる」「虐待する親も支援する」「時期を逃さない」「ネットワーク会議をもつ」「医療へつなげる」「出向く」「生活をみる」があげられた。 研究2として、質的な分析で明らかとなった保健師アドボカシーのマインドと支援行動を枠組みに質問紙を作成し、行政保健師に対する全国調査を行った。対象者は、県型および政令市保健所(全数)保健師687名と市町村(2/3抽出)保健師1160名とした。回収率は保健所44.1%、市町村56%であった。現在集計途次であるが、保健所・特に市町村保健師は子ども虐待事例を受け持っており、対応にあたり研究1で抽出された「家族の健康問題や複雑な事情」に対応していた。
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