わが国のHelicobacter pyloriは、胃癌と強く関連した強毒型である。本研究では、強毒性マーカーであり、初期感染機構であるタイプIV分泌システム(細菌分泌タンパクを胃粘膜上皮細胞内に注入するシステム)に焦点をあて、胃粘膜biopsyを電子顕微鏡解析することによって、ヒト(患者)胃粘膜での機能を調べた。まず、家族感染株を解析対象とした。リボタイピング解析の結果、この家族では、男児が父親のH.pyloriに感染していた。父親は慢性胃炎、男児は蛋白漏出性胃症と診断された。胃粘膜biopsyの電顕像は父親と男児では大きく異なっていた。男児では胃粘膜に定着しているH.pyloriの85%でタイプIV分泌システムによる典型的な台座形成(intimate adherence)が確認された。一方、父親の胃粘膜に定着しているH.pyloriでは、典型的な台座形成は確認できず、多くの胃biopsyでみられるような隙間のある粘着様式であった。しかも、男児のH.pyloriで膜の泡化現象(vesiculation)が顕著にみられた。なお、病原性遺伝子型はcagE、cagA、vacA s1a/m1、iceA1、babA2であった。以上の解析結果から、H.pyloriがヒトの胃粘膜では(1)膜の泡化現象で微絨毛を切断し、(2)台座形成で代表される強固な粘着を行う"2段階粘着"を示すことが分かった。しかも、その発現は宿主依存的で、蛋白漏出性胃症を患った男児で顕著で、慢性胃炎の父親では少なかった。あるいは、"2段階粘着"は蛋白漏出性胃症と関連するのかもしれない。現在、培養細胞レベルで解析を行っている。また、タイプIV分泌システムが逆輸送をも媒介する可能性、例えば「H.pyloriがタイプIV分泌システムを介して上皮細胞内からATP等を遊離させ、細胞内ATP濃度を減少させる」可能性について検討している。
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