(背景)脂肪組織は生体最大の内分泌臓器である。脂肪萎縮性糖尿病は脂肪組織欠如による著明なインスリン抵抗性を伴う難治性糖尿病であるが、我々は、ヒト脂肪萎縮性糖尿病のレプチン補充療法の劇的な改善効果を既に証明している。脂肪萎縮性糖尿病は脂肪細胞の欠如が根本的原因であること、多種類のアディポサイトカインが分泌されることから、脂肪細胞治療の開発の意義は大きい。歯髄組織で脂肪細胞へ分化する幹細胞の存在の可能性が指摘されており、歯髄からex vivoの培養系で大量に脂肪細胞を得られれば、生体に侵襲を与えない点で画期的である。(方法結果)京都大学倫理委員会の承認の下に、抜歯された成人智歯、脱落した小児乳歯から歯髄を採取し、コラゲナーゼなどでdigestionし、2週間培養し、脂肪細胞への分化誘導を検討した。歯髄細胞のvalidityを検討するために骨芽細胞への分化も検討した。(結果)智歯歯髄細胞、乳歯歯髄細胞でBMP-2などによる分化誘導刺激によりALP activityが上昇し、骨芽細胞への分化誘導が確認された。智歯歯髄細胞、乳歯歯髄細胞、及びpositive controlとしてヒト骨髄由来幹細胞で、adipogenic induction mediumで成熟脂肪細胞への分化誘導刺激を行った。骨髄由来幹細胞では分化誘導刺激によりOil red O染色で脂質の蓄積、培養上清中のレプチン様免疫活性より、成熟脂肪細胞への分化を認めたが、智歯歯髄細胞、乳歯歯髄細胞では成熟脂肪細胞への分化を認めなかった。(結論)智歯歯髄細胞、乳歯歯髄細胞には、骨芽細胞へ分化する細胞が含まれているが、脂肪細胞へ分化する細胞は認められなかった。歯髄における脂肪細胞へ分化する細胞の存在を完全に否定するのは難しいが、たとえ存在しても、その割合は低いものであり、脂肪細胞を高い効率で得る系として歯髄細胞が適切ではないことが示された。
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