この研究の目的は感覚-運動制御の神経プロセス(内部モデル)が音声および非音声の知覚にどの程度関与しているか明らかにすることである。初年度は、分析手法の開発と非母語の音声知覚研究を行った。分析方法の開発では、fMRIデータを利用して大脳表面における脳波(EEG)の局在部位を推定する方法の開発に大きな進展があった。開発した技術は、スペクトラルダイナミクス(周波数の時間変化)と異なった脳領域の機能的結合(インタラクション)を調べるために必要ものであり、これにより、知覚に関する内部モデルを実行する脳回路の研究が可能となった。非母語の音声知覚研究では、聴覚呈示された音声刺激対が被験者の母語で音韻対立を成しているものと成していないものの間の神経プロセスの差異を検討する実験のデザインを行った。被験者は日本語母語話者と英語母語話者とし、刺激音声はヒンディー語の音韻対立語を用いた。今年度は、刺激音として用いるヒンディ語話者による音声を録音した。また、EEGとfMRI同時計測に用いることができる刺激提示プログラムを作成した。さらに、この実験プログラムを用いて、EEGとfMRI同時計測データを被験者2名から採取した。その結果、母語にない音韻対立の知覚は、母語にある音韻対立の知覚に比べて、音声生成領域(ブローカ野、運動前野)と音声処理の音響的ジェスチャに関する領域(側頭野上部、側頭平面)の間により強い結合があることが示された。この結果は、母語にない音韻の知覚は、母語にある音韻よりも内部モデルがより強く関与していることを示唆する。
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