第一に、社会の先行きは不透明になり、従来の社会的ないし規範的価値観が崩れはじめたことで、従来は「当然」または「既知」と考えられたことについて、言動や行動などの表現形式の違いはあれ、少年の側から公然と疑問が提起されるようになった。その表れの一つが少年の薬物に対する対応である。これは、上述したように、「規範意識の弱化」と評価されるかもしれないが、逆に、少年の側からは、「他人に迷惑をかけていないのに、なぜ・どうして『悪い』のか」、と疑問と批判が混在した指摘が行われる可能性も十分にある。 第二に、従来から知られていることであるが、再犯の犯罪類型の典型は、窃盗罪と薬物の所持及び使用である。薬物犯罪の中でもとりわけ薬物の使用に焦点を絞ると、刑務所において再社会化のための矯正を施されても、薬物依存者のための個別プログラムがないために、薬物犯罪受刑者には矯正効果がない場合が多々ある。 ここでは、薬物や他の薬物による「依存症」がキー・タームになると言える。この依存症をもつ行為者に対しては、予防機能を刑法は発揮することができるであろうか、つまり、刑法と刑罰は依存症から回復させ、再び薬物を使用することをやめさせることができるのであろうか、一定の行為類型が刑罰で規制される場合、これは「犯罪」と定義されることになるが、薬物使用の中心問題を乱用と依存症にあると理解した場合、逆にこれは「病気」と定義されることになる。 本年度は、主として総論的に、そのために刑法を主要武器として薬物問題を克服できるのであろうかということについて研究を進めた。
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