本研究では、高校生から社会人までの聴覚障害青年に対して個別面接調査を実施し、幼少期から現在までのライフ・ヒストリーが語られる中から、教育歴(通常学校又はろう学校)、言語環境(音声言語又は手話言語)等の要因としたろう者および難聴者のアイデンティティ形成の実態を調査し、その形成過程に関する検討を行う。第一の研究目的は、高校生、大学生、社会人前期、社会人後期の各青年期の変遷を横断的に調査することである。また、第二の研究目的は、高校生から大学生・社会人になった後の変化、大学生から社会人になった後の変化、未婚から結婚した後の変化等、数例の事例を挙げながら縦断的な研究を行うことである。 平成16年度においては、聴覚障害のある高校生・大学生における青年期のアイデンティティ形成に関して、各個人の変遷過程と現状について面接調査を実施した。高校生においては、ろう学校生徒とインテグレーション環境で学ぶ難聴生徒について調査した。また、大学生においては、一般大学に学ぶ聴覚障害学生について調査した。さらに、社会人については20代前半の聴覚障害者について調査した。 高校生群の調査結果では、コミュニケーションや対人関係、心理的安定性については、インテグレーション環境で学ぶ生徒よりもろう学校在籍生徒の方が良好である傾向がみられたが、「ろう」「難聴」のアイデンティティの帰属意識については両群に差がみられなかった。しかし、大学生と社会人の群においては、これまでの生育歴における教育環境、言語環境により「ろう」または「難聴」のアイデンティティに分化していく者が多かった。しかし、今年度の研究調査については、高校生、大学生、社会人の各群の面接対象者が少ないため、平成17年度以降は、より多くの対象者に調査を実施し、研究の信頼性を高めていく予定である。 尚、今年度実施した調査において収集されたデータの一部を基にして、結果を考察し、学会発表を行った。平成17年度においては、論文としてまとめ、発表を行った。
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