本研究では、高校生から社会人までの聴覚障害青年に対して個別面接調査を実施し、幼少期から現在までのライフヒストリーが語られる中から、教育歴(普通学校またはろう学校)、言語環境(音声言語または手話言語)等を要因としたろう者および難聴者のアイデンティティ形成の実態を調査し、その形成過程に関する検討を行う。第一の目的は、高校生、大学生、社会人前期、社会人後期の各青年期の変遷について、横断的な調査研究を行うことである。また、第二の目的は、高校生から大学生・社会人になった後の変化、大学生から社会人になった後の変化、未婚から結婚した後の変化等、数例の事例を挙げ、縦断的な調査研究を行うことである。 平成17年度においては、平成16年度に引き続き、聴覚障害のある高校生・大学生・社会人における各青年期のアイデンティティ形成に関して、各個人の変遷過程と現状について面接調査を実施した。坂田(1990)、杉田(2000)の研究を参考にしながら、聴覚障害青年に対して、幼少期から現在までのライフヒストリーについて自由に語ってもらった。面接における質問項目としては、1)コミュニケーション手段の変遷、2)対人関係、3)聴覚障害に対する認識、4)言語・コミュニケーションに対する意識、5)聴覚障害に関するアイデンティティ、とする。面接時間は、ラポートの形成を考慮して長い時間を設定し、1名につき2時間程度とした。尚、コミュニケーション方法は、口話、キューサイン、手話など、個々の面接対象者が最もわかりやすい表現方法に合わせて実施した。聴覚障害のある高校生40名、一般大学に在籍する聴覚障害学生20名、社会人の聴覚障害学生20名における面接を終え、現在は調査によって得られたデータを質問項目ごとにまとめ、教育環境、言語環境等の要因によって分析し、聴覚障害に関するアイデンティティ形成との関連について検討しているところである。 平成17年度の研究結果の一部は、第43回日本特殊教育学会で学会発表した他、長南浩人編著『手話の心理学入門』の第4章「手話とアイデンティティ」にまとめた。平成18年度は、これまでの調査結果を論文にまとめ、各誌面に研究成果を報告していく予定である。
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