ライム病はスピロヘータの一種ボレリア感染に起因する慢性の感染症で、抗菌薬による治療を行わなかった場合、慢性の関節炎、皮膚炎、神経炎に移行する。本研究では、ライム病ボレリアゲノムシークエンスが完了したボレリアB31株を用い、病原性を維持したままでの遺伝子導入法確立を基盤とし、マウス感染モデルにおける病原性機構の解明を目的として研究を行っている。本年度の成果としては、B31株エピソームである28kb線状plasmid-3(lp28-3)を欠失した変異体ではマウス関節炎の重症化が起らない事、即ち、この表現型では関節周囲組織をふくむ心臓、耳介組織へのボレリア侵入能もしくは定着能が低下している事を明らかにした。 まず、低経代数のB31株を用い、plate cloningによりlp28-3を欠失した2株を得た。ついでC3H/HeN純系マウス皮下に試験株を接種後5週間継続して踵関節腫脹を調べた。その結果lp28-3欠失株ではlp28-3保有野生株を陽性対照として、踵関節腫脹度が約45%低下した。またリアルタイムPCR法により関節周囲組織での定着菌数を測定したところ、lp28-3欠失株では、関節周囲組織での菌数が野生株と比較して約70%低下していた。組織中菌数の減少傾向は心臓組織、耳介組織でも同様に見られた。これに先立って、lp28-3欠失株の組織での定着能を調べる目的で、関節周囲への細菌の直接接種を試みているが、本試験では炎症による腫脹度に優位差は認められなかった事から、lp28-3欠失による表現形質は、組織への病原体侵入能力の低下をもたらしている可能性が高い事が示唆された。 一方でlp28-3上の遺伝子相補試験による関与因子同定は、用いた大腸菌-ボレリアシャトルベクターがin vivoでは不安定であるため、成功していない(現在改良中)。
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