ライム病はスピロヘータの一種ボレリア感染に起因する慢性の感染症で、抗菌薬による治療を行わなかった場合、慢性の関節炎、皮膚炎、神経炎に移行する。本研究では、ライム病ボレリアゲノムシークエンスが完了したボレリアB31株を用い、病原性を維持したままでの遺伝子導入法確立を基盤とし、マウス感染モデルにおける病原性機構の解明を目的として研究を行っている。 昨年度までに、B31株エピソームである28kb線状plasmid-3(lp28-3)を決失した変異体では、接種部位から遠位に位置する関節組織において、関節炎の重症化が起こらない事、即ち、この表現型では関節周囲組織をふくむ心臓、耳介組織へのボレリア侵入能もしくは定着能が低下していることが明らかとなっていたが、本年度は、1)炎症の度合いは組織での定着菌数と比例すること、2)強制的に菌血症を起こさせた場合には、これら欠損変異株でも関節周囲組織への移行がwildと同程度に見出されることを定量的PCRにて確認した。このことは、菌血症による全身移行能(侵入性)が低下したと考えるよりは結合組織内での定着性が低下したことを推測させる。従い、今後の作業仮説として、経皮的に感染したBorreliaが菌血症をおこすまでのメカニズム、および接種部位での定着能を定量的に測定し、本作業仮説を確認するとともに、欠損領域が関与していることを明確にするためのcomplementation試験による実験を行う(準備済)。またボレリア細胞内寄生性ではないことから、細胞もしくは、細胞外マトリック成分への接着が重要と考えれられるため、相補試験により見出された定着因子については、宿主リガンドの同定を可能な限り追求したい。
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