研究概要 |
本研究では単離したモルモットの内有毛細胞を用い、NOのATP刺激により細胞内Ca^<2+>上昇に対する抑制作用のメカニズムを調べ、更に求心性の内有毛細胞内カルシウムへのnegative feedback作用に関わるNOの産生酵素を同定し、内耳求心性聴覚情報伝達機構におけるNO作用の解明を目的にしている。DAF-2を用いた実験で、ATP刺激によって、内有毛細胞において経時的なDAF-2の蛍光強度の増加すなわちNOの産生が見られた。このNO産生は非特異的NOS阻害剤であるL-NAME及びP2 receptorのantagonistであるsuramin, calmodulinのantagonistであるcalmidazoliumによって抑制された。Ca^<2+>-freeの場合はATP刺激によるNOの産生が認められなかった。NOとCa^<2+>同時測定の実験で、ATP刺激によって、内有毛細胞の細胞内Ca^<2+>濃度上昇後にNO産生が観察された。Fura-2を用いた実験で、ATP刺激による内有毛細胞内Ca^<2+>濃度の上昇はL-NAMEによって増強されたが、NO donorであるSNAPによって抑制された。更にATPによるCa^<2+>反応は膜透過型cGMPである8-Br-cGMPに抑制されたが、NOの標的酵素soluble guanylyl cyclase(sGC)の抑制剤であるODQ及びcGMP-依存性protein kinase(PKG)の抑制剤であるKT5823によって増強された。また、選択的nNOSの阻害剤である7-NIは非特異的NOS阻害剤であるL-NAMEと同程度にATP刺激によるNOの産生を抑制し、同程度にATP刺激によるCa^<2+>反応を増加した。単離した内有毛細胞を持ち、nNOSとeNOS、ATPのreceptorであるP2x2とnNOSとの二重免疫蛍光染色を行い、その結果、nNOSは細胞内に均一分布したeNOSと違って、内有毛細胞の頂部(apical region)に強く存在し、それにnNOSとP2X2は内有毛細胞の頂部に共存した。それぞれの免疫反応の特異性は蝸牛組織の蛋白抽出物を用い、western blotで確認した。以上の事から、ATPによるNOの産生は、P2 receptorの活性化によりCa^<2+>の流入がおこり、結果細胞内Ca^<2+>濃度が上昇し、nNOSが活性化され、NO産生が惹起された。惹起されたNOは、NO/cGMP/PKG経路を介して、negative feedbackにATPによるCa^<2+>の細胞内への流入を抑制したと考えられた。
|