研究課題/領域番号 |
16H02141
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
川又 雄二郎 東京大学, 大学院数理科学研究科, 教授 (90126037)
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研究分担者 |
戸田 幸伸 東京大学, カブリ数物連携宇宙研究機構, 教授 (20503882)
高木 俊輔 東京大学, 大学院数理科学研究科, 准教授 (40380670)
大川 新之介 大阪大学, 理学研究科, 講師 (60646909)
權業 善範 東京大学, 大学院数理科学研究科, 准教授 (70634210)
中村 勇哉 東京大学, 大学院数理科学研究科, 助教 (20780034)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 単純組 / 非可換変形 / 標準因子 / フロップ / 導来圏 / 半正値性定理 / 壁超え / 単射性定理 |
研究実績の概要 |
単純組というものを定義し、その非可換変形の理論の研究した。正則偏屈層の圏内での単純組の非可換変形を考え、その半普遍変形を決定した。特に、ファイバーの次元が高々1で構造層が高次順像を持たないような射影的射に対して, ファイバーの構造層から作った単純組の半普遍変形を決定した。これはフロップ収縮の場合におけるDonovan-Wemyssや Bodzenta-Bondalの結果の拡張だが、フリップ収縮の場合も含む。 K同値(標準因子が同値)ならばD同値(導来圏が同値)になるかという問題を研究し、K同値ならば導来圏をGrothendieck 環の局所化の中で考えた時には等式が成り立つことを証明した。これはDK予想の弱い証拠と言える。 Catanese 氏との共同研究では、代数的ファイバー空間(滑らかな代数多様体の間の連結な射影的全射)における相対標準層の直像を研究した。この研究対象はずっと以前に研究し, 半正値性定理を証明したものだったが、共同研究を機会に再度取り上げた。証明を精密化することにより、この直像がユニタリ平坦なベクトル束と、一般曲線切断上では豊富なベクトル朿になるような連接層との直和に分解することを証明した。この定理は底空間が1次元の場合の藤田の定理の拡張である。 研究分担者の戸田はMaulik氏と共同で定義した3次元Calabi-Yau多様体上のGopakumar-Vafa不変量の壁超え不変性について調べた。髙木と権業はKollarの単射性定理が正標数の場合でも大域的F正則多様体上では成り立つことを証明した.中村は田中氏と橋詰氏との共同研究として、標数7以上の3次元対数的標準対に対する極小モデルプログラムの存在を証明した。大川は導来圏の同値と代数多様体のGrothendieck環との関係についての問題を引き続き考察し、hyperKahler多様体からなる例を構成した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
DK予想(K同値ならばD同値)に関しては、導来圏のGrothendieck 環の局所化の中で考えた時には等式が成り立つことを証明し、DK予想の弱い証拠を示した。またDL予想(D同値ならばL同値=代数多様体のGrothendieck 環の局所化の中での等号)については新しい例を構成した。 導来圏の深い構造を調べる手段として、そのt構造を定めて、中心として得られるアーベル圏の構造を調べるのが有効である。t構造にさらに中心電荷関数も考えたものがBridgeland安定条件であり、中心電荷関数を連続的に変化させて不連続変化を観察するのが壁越えである。3次元フロップを含むかなり一般的な状況で、傾斜ベクトル束を使ってt構造を定義し、その中心として偏屈連接層のアーベル圏を構成し、その中で非可換変形理論を展開した。また、Gopakumar-Vafa不変量の壁越え公式を証明し、導来圏のさらに深い構造を探求した。このように、導来圏にさらに構造を付加することによって研究を推進することができた。
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今後の研究の推進方策 |
フリップ、フロップと因子収縮写像に対して、傾斜ベクトル束を構成すれば、対応した偏屈連接層の圏が定義できる。このアーベル圏の中で対象からなる単純組の非可換変形を考えることにより、導来圏のt構造を調べDK予想の証明に繋げたい。また、そのほかの不変量の変化も解析したい。代数曲面とその上の正規交差因子を台に持つQ因子に対して正しい導来圏の列を定義し、この場合のDK予想を証明することによって、3次元多様体のフリップの場合のDK予想を証明したい。双有理幾何学においては半正値性定理が重要な役割を果たし代数多様体の深い構造を反映していたが、導来圏の性質にはどのように反映されるかを研究する。 研究分担者である戸田氏、大川氏とともに双有理幾何学の非可換代数幾何学への拡張を研究する。導来圏の理論は非可換代数幾何学と様々な局面で関係する。極小モデル・プログラムの過程は壁越え現象と考えられるが、これを安定性条件の変化ととらえると、対応したモジュライ空間が変化していくので、これを具体的に解析する。また、非可換変形を大局的に考えると非可換多様体が構成されるので、非可換有理曲面をこの観点から解析する。研究分担者である高木氏、権業氏、中村氏とともに、極小モデル理論を正標数に拡張することを考える。標数0の極小モデル理論では消滅定理や単射性定理さらには半正値性定理が鍵となったが、これの拡張やその応用を引き続き研究する。ヴィット環を使った議論が有効ではないかと思われ、この方向をさらに進める。
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