研究課題/領域番号 |
16H02221
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
武尾 実 東京大学, 地震研究所, 教授 (00197279)
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研究分担者 |
杉岡 裕子 神戸大学, 理学研究科, 准教授 (00359184)
前野 深 東京大学, 地震研究所, 准教授 (20444078)
大湊 隆雄 東京大学, 地震研究所, 准教授 (70322039)
高木 朗充 気象庁気象研究所, 火山研究部, 室長 (70354537)
篠原 宏志 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 地質調査総合センター, 首席研究員 (80357194)
篠原 雅尚 東京大学, 地震研究所, 教授 (90242172)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 火山 / 固体地球物理学 / 地質学 |
研究実績の概要 |
2016年6月に気象庁の海洋気象観測船「啓風丸」を用いて無人ヘリコプターによる西之島観測を実施し,島の詳細な画像撮影と火砕丘からのスコリア採取に成功した.採取した試料の分析から,マグマが滞留している環境は浅所と深所の2つ存在していることが明らかになった. 海底地震計では噴火活動に伴う振動が捉えられていたが,2015年8月以降その数は減少し2015年11月末以降はほとんど観測されなくなった.この火山活動の低下を受け,東京大学大気海洋研究所の学術研究船「新青丸」により,10月16日から25日にかけて西之島の火山活動と生物相の上陸調査を実施した.調査内容は,西之島に上陸しての地質調査および火山噴出物の採取,地震・空振観測点の設置,噴火後の海鳥営巣状況の把握と,西之島周辺海域での海底地震計,海底電位磁力計の設置・回収とウェーブグライダーを用いた離島モニタリングシステムの試験である. 上陸調査では西海岸に上陸して,2014年3月から2015年11月頃までに噴出した溶岩・噴石及び旧島の溶岩,旧島上に堆積した火山灰を採取した.これらの噴出物について,XRFによる全岩化学組成分析を行った結果,全ての資料についてSiO2含有量59.5-59.9wt%の安山岩組成であり,1973-1974年噴出物と旧島溶岩との中間的な組成であること,及び今回の溶岩は化学組成が狭い範囲に集中し,時間経過とともSiO2含有量がやや低下した可能性があることがわかった.旧島上に設置した地震空振観測点からは順調に観測データが送られてきており,西之島の活動に関連する可能性のある長い継続時間を持つ高周波の微動が時々記録されている.今後,2017年6月に回収される海底地震計,海底電位磁力計の解析結果とあわせて,西之島のマグマ供給系が2年間の長期にわたりどの様に変化したかを地質学と地球物理学の両面から解明していく.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究計画では当初,西之島の噴火活動が活発で上陸調査が困難な状況にあるため,遠隔観測のプラットホームである無人ヘリコプター及び海底地震計観測を活用し,西之島での地球物理学的観測と物質科学的データの取得を行い,西之島形成のプロセスを解明することを目指していた.しかし,2015年11月以降の活動低下を受け,2016年8月には西之島の火口周辺規制が500mに緩和され,上陸調査が可能となった.この規制緩和以前の2016年6月に気象庁の海洋気象観測船「啓風丸」を用いて無人ヘリコプターによる西之島観測を実施し,当初の計画にある島内の画像撮影と火砕丘からのスコリア採取に成功し,採取した試料の分析からマグマが滞留している環境は浅所と深所の2つ存在していることを明らかにした. 10月の東京大学大気海洋研究所の学術研究船「新青丸」の共同利用研究による西之島調査では上陸調査が実現できるよう,無人ヘリコプターで撮影した画像を分析し,関係各方面との調整を行うことで,生態系の世界自然遺産に登録されている西之島の環境保全を優先する形で生態系研究者及び環境省と合同で上陸調査を実現した.本研究計画の立案時点では上陸調査の見通しがたたない状況であったが,上陸調査を実施できたことにより2014年3月から2015年11月頃までに噴出した溶岩・噴石及び旧島の溶岩,堆積した火山灰を採取することに成功し,長期にわたる噴火活動のメカニズムを解明するための重要な手がかりを得た.また,西之島周辺での海底地震計の回収・設置,海底電位磁力計の設置を行い,噴火活動の詳細な推移と西之島直下の比抵抗構造の解明を通じてのマグマ溜り把握に向け大きな前進が出来た.遠隔地洋上の火山島の活動把握に向けて旧島上に地震空振観測点を設置し,ウェーブグライダーを用いた離島モニタリングシステムの試験にも成功し,当初予定した研究計画より大きな進捗があった.
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今後の研究の推進方策 |
2017年度は,5月23日から6月6日に実施される気象庁の海洋気象観測船「啓風丸」の西之島航海において,昨年10月に設置した海底地震計,海底電位磁力計及びベクトル津波計の回収を行う.7月上旬及び10月には,環境省による自然環境調査と合同して再度,西之島の上陸調査を行う.この上陸調査では,昨年度の上陸調査できなかった地域での溶岩・噴出物の採取と地質調査,昨年度設置した地震空振観測点のメインテナンスとデータ回収,さらに,火砕丘周辺への新たな地震空振観測点の設置を行う. 回収した海底地震計及び島内の地震空振観測のデータを照合して解析することにより,昨年10月以降の西之島の火山活動の推移を把握すると同時に,海底地震計に記録されたシグナルと西之島の火山活動との関連を明らかにする.これにより,昨年10月以前に海底地震計に記録されたシグナルから2015年2月以降のより詳細な火山活動推移を解明する.さらに,回収した海底電位磁力計のデータの解析を進め,西之島直下の比抵抗構造を明らかにする.昨年度の調査と合わせて今年度で西之島の全方位にわたる溶岩・噴出物の採取と地質調査を完了させ,調査資料の整理と採取試料の分析を進める. さらに次年度以降,溶岩・噴出物,スコリアの分析から明らかにされる噴出物組成の変化,マグマ上昇プロセス及びマグマ溜りに関する情報と,海底地震観測及び島内の地震空振観測から明らかにされる西之島の活動推移や西之島直下の比抵抗構造から推定されるマグマ溜りの位置や規模についての情報を統合して,2年間という長期にわたるマグマ供給による西之島成長のプロセスを,地球物理学及び物質科学の両側面から明らかにする.
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