研究課題/領域番号 |
16H02420
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
津本 浩平 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 教授 (90271866)
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研究分担者 |
長門石 曉 東京大学, 医科学研究所, 特任准教授 (30550248)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 創薬 / 蛋白質 / 低分子 / 抗体 / 物理化学 |
研究実績の概要 |
今年度は、モデルVHH, scFv抗体について、その抗原結合に関する複合体情報をX線結晶構造解析等を含めて収集すると共に、その分子間相互作用に関する物理化学的解析を実施した。特にP-cadherinに対する抗体に関しては、その抗原に対する機能阻害メカニズムの解明にも取り組んだ(Sci. Rep. 2017, 7: 39518)。抗P-cadherin抗体はscFvで調製し、抗原との相互作用に関して詳細な物理化学的相互作用解析を行った。その結果、抗P-cadherin抗体はエンタルピー駆動型、かつ低い解離速度定数で抗原と結合し、抗原ダイマーの終状態を阻害しているのではなく、抗原の中間体に作用して、平衡をモノマーに偏らせるというメカニズムであることが明らかとなった。この成果は、抗体-抗原間相互作用に関する物理化学的パラメータも精査することにより、効果的な抗体設計が可能であることを示唆している。またVHH抗体のファージディスプレイを実施するための基盤構築を実施した。特にモデルとなるVHHのCDR3ループに無作為に変異箇所を導入したライブラリーの設計とその構築を行った。 低分子においては、モデル蛋白質と低分子薬剤について、その相互作用に関する物理化学的解析を行った。またがん関連、病原性微生物関連など蛋白質―蛋白質間相互作用PPIに関する精密な相互作用解析を遂行し、これらに対する阻害剤スクリーニングを実施した。一方で、ミトコンドリア病に関連する新規な標的蛋白質に対して、新規低分子薬剤との物理化学的な相互作用解析を実施した。その結果、薬剤は弱いながらも(解離定数uMオーダー)in vitroにて結合していることが明らかとなった(J Am Soc Nephrol. 2016, 27, 1925)。この成果は、物理化学的解析による評価系が、標的分子に対した特異的に作用し、かつ低親和性にも関わらず細胞内で阻害活性を示す、リガンドの質を担保する有用なツールであることを示している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
抗体においては各種標的蛋白質に対するファージディプレイの構築、低分子においても各種標的蛋白質に対するスクリーニングの構築を行った。探索・選抜へ向けた基盤構築は滞りなく進んでおり、おおむね研究計画は順調に進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
<抗体の相互作用解析と探索> ファージディスプレイを構築すると共に、それを活用して各種標的蛋白質に対する抗体(VHHやscFvなど)の取得を行う。得られた抗体に対しては、その特異性評価として、等温滴定型熱量計、表面プラズモン共鳴による熱力学・速度論解析を実施する。一方で既存のモデル抗原-抗体相互作用においては、引き続きアミノ酸レベルでの特異性創出メカニズムの解明を実施する。特に、遷移状態に関する物理化学パラメータを収集し、抗体の分子認識メカニズムと特性(特異性創出、阻害活性)に関する詳細な解析を試みる。 <低分子化合物の相互作用解析と探索> 各種標的蛋白質に愛する低分子化合物スクリーニングを実施し、ヒット化合物の探索・選抜を行う。さらにヒットバリデーションとして物理化学的パラメータを指標とした検証を行い、低分子のリガンドとしての質を精密に解析する。その際に、おそらくは高活性なヒット化合物は得られず、親和性の低い分子が選抜されると予想される。そのため、リガンドとしての質を担保するために、細胞アッセイをバリデーションツールの1つとして取り入れ、ヒット化合物のin vitro, in cell両方における特異性を見極める。
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