研究課題
今年度は、モデルVHH, scFv抗体について、その抗原結合に関する物理化学的パラメータ(熱力学、速度論、熱安定性)を収集した。VHH抗体ではアラニンスキャニングを実施し、Hot Spot探索や親和性貢献に関する各アミノ酸の加算性などについて詳細な解析を行った。その結果、同じ抗原でもエピトープの違いや抗体の可変領域の1次配列の相違により、熱力学パラメータ、特に遷移状態に関する物理化学的性質が異なることが明らかとなった。またscFv抗体では、熱安定性と結合親和性に関する相関関係の議論や(J. Biochem. 2017, 162(4):255-258)、標的蛋白質との結合における熱力学解析と阻害能について成果を出すことに成功した(Sci. Rep. 2017, 7:39518.)。またVHH抗体のファージディスプレイライブラリーを構築し、リゾチーム蛋白質、インターロイキン受容体、病原性微生物表層蛋白質などの抗原に対するVHH抗体の取得に成功した。一方で低分子においては、モデル蛋白質と低分子薬剤について、その相互作用に関する物理化学的パラメータ(熱力学、速度論)を収集した。具体的には、キナーゼ等の酵素と既知阻害剤との結合に関するITCやSPRを用いた精密な相互作用解析を実施し、遷移状態に関する議論に展開することができた。またがん関連、病原性微生物関連など蛋白質―蛋白質間相互作用PPIに関する精密な相互作用解析を行い(Biochem Biophys Res Commun. 2017, 493(2):1109-1114.)、これらに対する阻害剤スクリーニングを実施し、ヒット化合物の取得に成功した。
2: おおむね順調に進展している
抗体のファージディプレイ、低分子化合物のスクリーニング、共に標的蛋白質に結合する分子を取得することが出来ている。そのうち目的の阻害活性を示す抗体、低分子化合物も選抜できており、おおむね研究計画は順調に進んでいる。
<抗体の相互作用解析と探索>ファージディスプレイによる取得したVHH抗体に関する特異性評価として、等温滴定型熱量計、表面プラズモン共鳴による熱力学・速度論解析を実施する。その際に抗体自身の物性も解析する。具体的には、示差走査型熱量計、示差走査型蛍光法、円偏光二色性スペクトル、多角度光散乱法などを活用して、抗体の熱安定性、フォールディング状態などを評価し、抗体として安定な物性を示すものを選択する。選択された抗体は抗原との複合体に関するX線結晶構造解析を実施することにより、アミノ酸レベルでの特異性創出メカニズムを解明する。その際に、計算化学を導入することにより、親和性向上、安定性向上につながる分子設計案を得ることを試みる。<低分子化合物の相互作用解析と探索>低分子化合物スクリーニングによる取得した低分子阻害剤に関する特異性評価として、こちらも等温滴定型熱量計、表面プラズモン共鳴による熱力学・速度論解析を実施する。また低分子結合に伴う標的蛋白質の物性評価も行う。具体的には、示差走査型熱量計、示差走査型蛍光法、円偏光二色性スペクトル、多角度光散乱法などを活用して、低分子結合に伴う標的蛋白質の物性変化を詳細に解析する。選抜されたヒット化合物との標的蛋白質との複合体に関するX線結晶構造解析を実施することにより、アミノ酸レベルでの特異性創出メカニズムを解明する。これより高い阻害活性を示す低分子設計に関する知見を収集し、低分子化合物の有機合成による構造展開、ドッキングによる構造設計も検討する。
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