研究課題
本研究課題では、ホウ素中性子捕捉療法(BNCT)における、がん腫標的能をオンデマンドに付与できるテーラーメード型ホウ素薬剤を創製することを目的としている。BNCTは現在、脳腫瘍等の難治性がんに対する非侵襲的な先端的治療法として注目されている。しかし第2世代ホウ素化合物は、、臨床研究においてがん選択性や集積性が不十分であり、それらを改善した薬剤開発が強く求められている。よって本研究では、ペプチド化学と薬物送達における高い優位性(非免疫原性、細胞機能制御分子の内包、膜蛋白質構築、無限分泌、安全性)を有する細胞由来ナノ材料のエクソソームを新たに融合し、標的がん細胞への確実な送達能と生体への安全性を強化した革新的な次世代型ホウ素薬剤を開発する。エクソソームを基盤とした細胞内導入技術の開発において、膜透過性アルギニンペプチドをエクソソーム膜に結合させることで、標的細胞へのマクロピノサイトーシス誘導、及び、顕著な細胞内移行の促進が平成28年度の研究において達成された。また、アルギニンペプチド配列中のアルギニン残機数の違いによって、エクソソームの細胞内移行効率、及び、細胞内におけるエクソソーム内包物のサイトゾル放出効率が異なることが初めて明らかとなった(Nakase et al. Sci. Rep. in press)。膜透過性アルギニンペプチド自体は、既にin vivo研究において腫瘍集積性が認めらており、今後、エクソソームを細胞内導入キャリアとして用いたホウ素化合物の細胞内送達技術の構築に繋げる。
1: 当初の計画以上に進展している
「研究実績の概要」に記述したが、平成28年度の研究において、膜透過性アルギニンペプチド修飾型エクソソームの創製方法の開発、及び、本エクソソームの細胞内移行評価を行った。アルギニンペプチドは形質膜でがん細胞でも高発現が知られているプロテオグリカンを介してマクロピノサイトーシスを誘導する。本研究では、エクソソーム膜に新たにアルギニンペプチドを修飾することで、エクソソーム自体によるマクロピノサイトーシス誘導と効果的な細胞内取込み促進を狙った。緑色蛍光タンパク質(GFP)標識エクソソームにアルギニンペプチドを化学修飾(二価性リンカーを利用)することで、CHO-K1細胞を用いた実験の結果、細胞内移行が顕著に促進することが明らかとなった。さらに、ペプチド配列中のアルギニン残基数の違いによって、マクロピノサイトーシスの誘導性や細胞内取込み効率が異なることが示された。例えば、オクタアルギニン(R8)をエクソソーム膜に結合させることで、約29倍(エクソソーム:20 μg/ml、24時間条件)も細胞内移行量が上昇することが明らかとなった。アルギニンペプチド修飾型エクソソームによって、その細胞内移行時にアクチン重合によるラメリポディア構造が観察され、マクロピノサイトーシスを効果的に誘導することでエクソソームの細胞内取り込みが顕著に上昇することが示された(Nakase et al. Sci. Rep. in press)。さらにエクソソーム内包物のサイトゾル放出について調べた結果、アルギニンペプチド修飾によってサイトゾル放出効率の上昇が確認され、またペプチド配列中のアルギニン残基数によって放出効率が顕著に異なることが示された。このことから修飾するアルギニンペプチド配列中のアルギニン残基数の違いがエクソソーム内包物のサイトゾル放出に大きく影響することが示唆された。
上記のように、エクソソーム膜に膜透過性アルギニンペプチドを修飾することで、エクソソームの細胞内移行をマクロピノサイトーシス誘導によって顕著に上昇させることができるようになった(Nakase et al. Sci. Rep. in press)。また、人工ヘリックスペプチドを修飾したエクソソームでは、標的とする受容体を発現する細胞を認識し、効果的に細胞内へ取り込まれる技術開発にも成功している(Nakase et al. Chem. Commun.(2017))。今後、エクソソーム内へのホウ素化合物の内包技術をさらに進め、本技術を利用したin vitro、及び、in vivo実験を展開し、BNCTでの薬効評価を行う。In vitro実験では、エクソソーム内包ホウ素薬剤について、標的とするがん細胞、及び、標的としない細胞への認識や移行性について、共焦点顕微鏡や全反射顕微鏡、フローサイトメーターを用いて詳細に検討を行う。ここで得られた知見を再度ホウ素薬剤の設計にフィードバックすることで、より確実に標的癌細胞に送達可能な薬剤の創出に繋げる。そして、担がんマウスを用いたin vivo実験系で中性子線照射による細胞死誘導効率の評価や、正常細胞の場合との比較、及び、分子生物学的な細胞死誘導のメカニズムの検討を行い、BNCTでの最も有用性・実用性の高い、最適なホウ素薬剤を創出することを目指す。
すべて 2017 2016 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (9件) (うち国際共著 2件、 査読あり 9件、 オープンアクセス 2件、 謝辞記載あり 2件) 学会発表 (51件) (うち国際学会 10件、 招待講演 15件) 図書 (2件) 備考 (1件) 産業財産権 (1件)
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