研究課題
ホウ素中性子捕捉療法(BNCT)は、脳腫瘍等の特定の難治性がんに対し高い治療効果を有することが認められている。BNCTは非侵襲的な先端的がん治療法として注目されている一方で、現在、臨床研究で用いられている第2世代ホウ素化合物はがん選択性や集積性が不十分であることが指摘されており、それらの改善が強く求められている。そこで本研究課題では、がん腫に応じて標的能をオンデマンドに制御可能なテーラーメード型ホウ素薬剤を開発する事を目的としている。平成30年度において、がんに高発現する糖蛋白質を標的としたがん細胞へのホウ素薬剤導入効率の増強や、細胞内移行後のホウ素薬剤の細胞外漏出防止、及び細胞内特定オルガネラへの高い集積性を目指した機能性ペプチドとホウ素化合物のコンジュゲート体を設計・合成し、BNCT評価を行なった。特にミトコンドリアへの集積を狙った機能性ペプチドを使った結果、(1)治療用ホウ素化合物の細胞内導入効率の顕著な向上(細胞膜透過)と高いミトコンドリア集積、(2)細胞内移行後のホウ素化合物の滞留性(ミトコンドリア結合)の向上、(3)コンジュゲート体自体の細胞毒性が殆どない、(4)中性子線照射実験において、臨床研究で用いられている既存のホウ素薬剤と比較して、コンジュゲート体による効果的ながん細胞死誘導が示された。中でも、ホウ素薬剤の細胞内位置を機能性ペプチドで制御することで、中性子線照射実験において細胞死誘導効率が顕著に変化することを世界で初めて明らかにし、細胞の生死に大きく関わるミトコンドリアにホウ素薬剤を効率的に集める技術を構築できたことは極めて画期的な成果である。
1: 当初の計画以上に進展している
平成30年度において、細胞膜を通過し、ミトコンドリアへ集積する機能性ペプチドとホウ素化合物のコンジュゲート体を合成することで、ホウ素化合物の効果的ながん細胞内導入の達成、ミトコンドリア集積による細胞内滞留性の向上、中性子線照射実験での顕著ながん細胞死誘導(照射しない限り低毒性)を確認した。上記の通り、ホウ素薬剤の細胞内位置を機能性ペプチドで制御することで、中性子線照射実験において細胞死誘導効率が顕著に変化することを世界で初めて明らかにし、細胞の生死に大きく関わるミトコンドリアにホウ素薬剤を効率的に集める技術を構築できたことは極めて画期的な成果である。本研究によって、ミトコンドリアにホウ素薬剤を集めることで、中性子線照射による高いアポトーシス誘導と、さらに、細胞ホメオスタシスを維持する為に重要なATP産生を顕著に低減させることを示した。細胞標的のみならず、細胞内でのホウ素薬剤の位置を制御することで、中性子線照射による細胞死誘導過程や効率性に大きく影響を与えることを明らかとし、BNCTに関わらず様々な薬剤導入に貢献できる方法論の確立に成功した(現在、論文投稿中)。これらの細胞内移行性向上・オルガネラ集積技術の構築に加え、標的細胞の受容体に高効率に結合できる「カセット式」抗体結合型ホウ素薬剤の合成にも成功している(現在、論文準備中)。標的受容体に結合する抗体を混合するのみでホウ素薬剤に結合でき、オンデマンドに狙った受容体を介して細胞内へホウ素薬剤を導入し、中性子線照射によって細胞死誘導を上昇させる技術構築も現在確立しつつある。
平成30年度に引き続き、in vitro基礎研究で上記確立した糖鎖標的-オルガネラ集積性ホウ素薬剤、及び、抗体結合型ホウ素薬剤を用いて、申請書の研究計画3を中心に研究展開する。<研究計画3:新規ホウ素薬剤の細胞内移行・マウス体内分布の可視化> 調製したホウ素薬剤に関して、標的がん細胞内移行性や局在性、標的としない細胞の取り込み効率に関して、in vivo(担がんマウス)で検討する。実験内容: (1)担がんヌードマウスを用いた蛍光・PETイメージングによる、移植したがん細胞へのホウ素薬剤の集積、体内分布を検出。(2)目的の受容体を高発現したがん細胞、及び、標的としない正常細胞に対するホウ素薬剤の細胞内取り込みの検討。(3)細胞内への取り込みについて組織切片や生細胞分散取得を行い、共焦点レーザー顕微鏡、ICP発光分光分析装置等による測定。研究計画3で得られた結果を再度ホウ素薬剤の分子設計にフィードバックすることで、動物体内での滞留性や腫瘍集積性、細胞内オルガネラの標的性を更に向上させる技術を構築し、中性子線照射によって誘導される細胞死機序(ホウ素化合物の細胞内局在と細胞死誘導への因果関係)を最も効果的に機能発揮できる薬剤設計を目指す。
すべて 2019 2018 その他
すべて 国際共同研究 (3件) 雑誌論文 (7件) (うち国際共著 1件、 査読あり 7件) 学会発表 (62件) (うち国際学会 26件、 招待講演 15件) 備考 (1件) 産業財産権 (1件)
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