研究課題
老化の原因の1つとして、タンパク質分解酵素プロテアソームの機能低下があげられる。プロテアソーム活性が低下すると、変性タンパク質が蓄積し細胞機能が破綻する。したがってプロテアソーム発現を維持できれば老化予防(アンチエイジング)が可能になる。しかしながら、これまでプロテアソームの発現機構やその転写因子すら解明できていなかった。最近申請者らは、この問題を解明する基礎データとして、転写因子Nrf1がプロテアソームの誘導的発現を制御していることを見出した(Mol Cell Biol (2011))。つまりNrf1の活性を制御することで、加齢に応じたプロテアソーム活性の低下を抑制し、ひいてはアンチエイジングをもたらすことが強く期待される。ところでNrf1は通常小胞体にアンカーされ核移行が阻害されていることから、転写因子としての機能は阻害されている。したがってNrf1は誘導的転写因子であり、それゆえにプロテアソームの発現を誘導的に制御するわけである。しかしNrf1がどのような刺激で活性化し核移行するのか、どのようにプロテアソーム遺伝子を発現制御するのかは不明である。さらにNrf1を誘導することで加齢に応じたプロテアソーム活性を相補できるのか、マウス個体レベルでは検証されていない。そこで以上の観点から、本研究では下記の問題について解析する。(1)細胞レベルでのNrf1によるプロテアソーム誘導のアンチエイジング効果の検証(2)プロテアソーム誘導を引き起こすNrf1活性化機構の解明とNrf1活性化物質の同定(3)マウス個体レベルでの加齢に応じたプロテアソーム活性低下とNrf1の機能連関
2: おおむね順調に進展している
現在までに、Nrf1によるプロテアソーム遺伝子の発現機構について、いくつか解明されつつある。(1)Nrf1活性化機構の解析通常Nrf1は小胞体にアンカーされており核移行が阻害されることで、転写因子としての機能が抑制されている。したがってNrf1が核移行するためのメカニズムならびにNrf1の核移行をもたらす活性化シグナルが存在するはずである。最近、Nrf1が核移行するためにはタンパク質切断酵素DDI2が必要であるという報告がなされたが(Koizumi (2016) eLife)、実際その追試に成功した。さらにDDI2によるNrf1の切断には、ユビキチン結合酵素HRD1によるNrf1のユビキチン化が必要である可能性を見出した。したがってNrf1がDDI2によるタンパク質切断を受けて核移行するためには、Nrf1のユビキチン化後にDDI2により切断を受けるか、あるいはプロテアソームによりタンパク質分解されるのかという制御メカニズムが存在する可能性を見出した。(2)Nrf1による遺伝子発現機構の解析Nrf1によるプロテアソーム発現機構を解明する目的で、網羅的にNrf1結合因子を同定するプロテオーム解析を行い、エピジェネティック制御因子HCF1を同定した。さらにHCF1がNrf1によるプロテアソームの発現に関わることを、RNA干渉法のノックダウン実験で確認した。ところで、プロテアソームは33サブユニットから構成される巨大タンパク質複合体であり、これらは33遺伝子座から転写されるという特徴をもつ。これだけの多数の遺伝子群を同時に過不足なく発現制御するためには、一般的な転写制御機構をは異なるメカニズムの存在が想起される。このメカニズムにHCF1によるエピジェネティック制御が存在すると仮説を立て、今後研究を進めていく予定である。
タンパク質分解に関わるプロテアソームの誘導的発現を転写因子Nrf1が制御していることは、これまでの解析からほぼ確実となっている。そこで今後は以下の課題について取り組む予定である。(1)Nrf1の活性化機構の解明とNrf1活性化物質の同定Nrf1の活性化機構にDDI2とHRD1が関与することが明らかになったので、さらなる詳細な分子メカニズムを解明する。DDI2のタンパク質切断の活性制御機構を解明する目的で、DDI2結合因子を同定するプロテオーム解析をすでに開始している。また最近、遺伝学的解析から、UBXD8とNGLY1がNrf1の制御に関わる可能性が報告されている(Koizumi (2016) eLife, Wang (2017) Cell)。これら関与遺伝子を網羅的に同定した上で、個々の分子作用を解明することで、Nrf1の活性化機構を解明する予定である。(2)マウス個体レベルでの加齢に応じたプロテアソーム活性低下とNrf1の機能連関以上の解析は細胞レベルの解析であるため、マウス個体レベルの解析を開始し、表記のタイトルの課題について解析を行う。
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