研究課題
老化の原因の1つとして、タンパク質分解酵素プロテアソームの機能低下があげられる。プロテアソーム活性が低下すると、変性タンパク質が蓄積し細胞機能が破綻する。逆にプロテアソームを過剰発現させた線虫は、寿命が延長されることが知られている。したがってプロテアソーム発現を維持できれば老化予防(アンチエイジング)が可能になる。しかしながら、これまでプロテアソームの発現機構やその転写因子すら解明できていなかった。最近申請者らを初めとする複数のグループが、この問題を解明する基礎データとして、転写因子Nrf1がプロテアソームの誘導的発現を制御していることを見出した(Mol Cell (2010), Mol Cell (2010), Mol Cell Biol (2011))。つまりNrf1の活性を制御することで、加齢に応じたプロテアソーム活性の低下を抑制し、ひいてはアンチエイジングをもたらすことが強く期待される。本年度は、以下の点について解明することができた。(1)タンパク質品質管理におけるNRF1の遺伝子発現ネットワークの解明NRF1が制御するプロテアソームをはじめとする標的遺伝子を網羅的に解明するために、ChIP-seq解析とマイクロアレイ解析を行い、NRF1が直接転写誘導している遺伝子を複数同定することに成功した。(2)関連因子NRF3によるタンパク質分解機構の発見NRF3は20Sプロテアソームの遺伝子発現というよりも20SプロテアソームのアセンブリシャペロンUMP1遺伝子を誘導することで、20Sプロテアソームを活性化することを見出した。
2: おおむね順調に進展している
(1)タンパク質品質管理におけるNRF1の遺伝子発現ネットワークの解明NRF1が制御するプロテアソームをはじめとする標的遺伝子を網羅的に解明するために、ChIP-seq解析とマイクロアレイ解析を行った。ChIP-seq解析では、ヒト大腸ガン由来HCT116細胞とNRF1抗体によりNRF1が結合した領域を単離し次世代シークエンスにより遺伝子座を同定することに成功した。さらにマイクロアレイ解析ではプロテアソーム阻害剤によりNRF1を安定化させることで発現上昇した遺伝子群を同定した。これら両解析から抽出された遺伝子データを統合し、NRF1が直接転写誘導している遺伝子を複数同定することに成功した。これらNRF1標的遺伝子群の中には、プロテアソームのみならず、様々な生命現象に関わる遺伝子が含まれている。現在、各遺伝子の吟味とタンパク質品質管理ならびにアンチエイジングとの関連を精査中である。(2)関連因子NRF3によるタンパク質分解機構の発見NRF1が属するCNCファミリー転写因子群には酸化ストレス応答で有名なNRF2と申請者が世界に先駆けて発見したNRF3が存在する。すでにNRF2は酸化ストレス下でのプロテアソーム遺伝子の発現に関わることが知られているが、NRF3については不明なままであった。今回、NRF3もまたプロテアソーム遺伝子群の制御に関わる可能性を見出したが、NRF3は20Sプロテアソーム特異的であった。さらに精査したところ、NRF3は20Sプロテアソーム遺伝子というよりも20SプロテアソームのアセンブリシャペロンUMP1遺伝子を誘導することを見出した。この生理機能の意義をガン発症過程において見出しており、本研究の新たな展開を見せている。ガンは細胞増殖の亢進とともに、細胞死の抑制が鍵となり、これは正に細胞のアンチエイジングの活性化と捉えることが可能である。
(1)タンパク質品質管理におけるNRF1の遺伝子発現ネットワークの解明 昨年度同定したNRF1標的遺伝子群を精査することで、NRF1の直接的な標的遺伝子を確定する。そして、それら遺伝子とプロテアソームによるタンパク質品質管理の亢進ならびにアンチエイジングにつながる生理メカニズムを解明する。(2)NRF1過剰発現による細胞寿命の亢進 NRF1がアンチエイジングをもたらすプロテアソームを誘導することから、NRF1過剰発現が細胞老化を抑制すると考えられる。現在樹立中であるNRF1過剰発現細胞を完成させ、細胞老化という観点で精査する。(3)NRF1関連因子NRF3の20Sプロテアソームを介したガン細胞における生理作用の解明 昨年度、本研究により新たな展開を示したNRF1関連因子NRF3による20Sプロテアソームによる新たなタンパク質分解機構の詳細について、ガン発症という過程において解明する。特に、20Sプロテアソームは26Sプロテアソームと異なり、ユビキチン鎖を認識する19S複合体をもたないため、ユビキチン非依存的なタンパク質分解になる。そこでNRF3により活性化した20Sプロテアソームによるタンパク質分解メカニズム、分解タンパク質を解明する。
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