研究課題/領域番号 |
16H03415
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
岩田 礼 金沢大学, 歴史言語文化学系, 教授 (10142358)
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研究分担者 |
川口 裕司 東京外国語大学, 大学院総合国際学研究院, 教授 (20204703)
大西 拓一郎 大学共同利用機関法人人間文化研究機構国立国語研究所, 時空間変異研究系, 教授 (30213797)
中井 精一 富山大学, 人文学部, 教授 (90303198)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 言語地理学 / 地理的分布 / 方言伝播 / 言語外的要因 / 民間語源 / 類音牽引 / 同音衝突 / 混淆 |
研究実績の概要 |
言語地理学は、地図上に現れた言語形式(又はそれに対応する語の意味)の分布が言葉の歴史的地層を反映するとの仮定の下に、言語変化の過程と変化の要因を明らかにしようとする。このような言語史の再構作業において、周圏論は一定の効力を有するが、地図上の分布は人間を取り巻く様々な要因によって形成されたものであるので、自然科学のような単一の公理によってすべてが解けるものではない。そのため、一枚の言語地図の解釈についてしばしば異なった解釈が生まれることになる。ここに言語地理学が宿命的に抱える弱点があった。一方、言語地理学の手法が従来適用されてきたヨーロッパや日本の方言、そして近年、本研究代表者らによって研究が進んだ中国語方言においては、国や地域を越えて共通する諸現象がみられることが明らかとなっている。それらは、民間語源、類音牽引、同音衝突、類推、混淆、過剰修正などである。これらの現象が生まれる条件について、従来、国や地域を越えた研究が不足していたとの認識に立ち、本研究では、日本、中国、フランスの方言について言語地理学的研究を蓄積してきたメンバーが集まり、「対照言語地図」の制作を通じて、いかなる条件があれば当該現象が生起するかという変化の一般性、普遍性を帰納する。また、方言伝播と言語外的要因の関係を考慮しながら、方言地図解釈の恣意性を克服することを目指す。 初年度は、2回の研究会を軸として、各言語について利用可能な基礎データを整理しながら、次の各事項について実例の検討を進めた:①民間語源、類音牽引、同音衝突、混淆等、②典型的な分布パターン(ABA分布、AB分布等)、③方言伝播のパターンと言語外的要因の関連。 また、中国、フランス等の関連領域研究者との研究交流を進めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度は、2回の研究会を通じて、研究の目的と作業計画について、分担者、連携研究者の間で認識を共有することができた。研究会は密度の高いものとなり、「対照言語地図」が解釈の妥当性を保証する上で有効な手段となることを確認した。各言語に関する具体的な作業については、電子メール等を通じて進捗度を確認し、専門外の言語に関する情報を得ることで認識を共有することができた。たまたま、2017年8月に国立国語研究所で国際会議Methods in Dialectologyが開催されることになったため、初年度の研究成果は本研究グループが独自のワークショップを開催することで、国際的な評価を受ける場とすることとした。 海外の研究者との交流は順調に進み、特に方言地図の制作を進めている広東・Jinan大学、陝西師範大学の研究スタッフとの交流は有益であった。このほか、フランス、ニュージーランドの研究者から、それぞれフランス及び中国の方言に関するデータを得ることができた。 一方、当初、言語データの蓄積に関する共通のプラットフォームを作成する予定であったが、実現することができなかった。
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今後の研究の推進方策 |
二年度(2017年度)は、引き続き「対照言語地図」作成のための基礎作業を進める。その上半期は、国際会議Methods in Dialectologyでのワークショップを成功させるために全力を挙げる。下半期は、「対照言語地図」を20セット程度試作する。 三年度(2018年度)は、「対照言語地図」の意義を内外に広めるために独自の国際会議開催を計画しているので、そこに照準を合わせて作業を進めるとともに、理論的枠組みの確立を図る。
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