助成対象の最終年度である2019年度には,これまでに各研究者が行ってきた,国際家事メディエーションにかかる研究の現時点での総括を行った。すなわち,(1)メディエーション一般について,国連の作成した調停合意の承認執行にかかる国際条約(いわゆるシンガポール条約)が成立するなど,国際的にはその有用性が認識され,かつ国際的な局面での活用が求められていること,(2)日本でもメディエーション一般や国際家事メディエーションを含むADRの活用はビジネス界司法界のいずれにおいても必要とされているものの,法整備は諸外国に比して,格段に遅れており,この点への対応が喫緊の課題であること,(3)その状況の中で現時点での対応可能性としては,従前の国際民事手続法や国際私法的なアプローチを踏まえた解決策の提示とならざるを得ないことが結論として得られた。しかしながら,とくにメディエーションで得られた合意の国際的な承認執行スキームについては,従来の外国裁判の承認執行もしくは仲裁判断の承認執行といった枠組では対応しきれない部分が残っており,この点は国際家事メディエーションにかかる大きな検討課題として残る問題である。 他方,メディエーションを日本で国際家事事件に活用する際の実務的な課題として,国際的にメディエーターとして活躍しうる人材育成の問題があるところ,この点については,ドイツにおいて国際家事メディエーションを提供しており,かつ,EU域内のメディエーター養成モデルを構築したMikkから講師を呼び,本研究において継続的に人材育成の問題を解消するよう努めてきた。結果,延べ約90名の実務家が国際水準のトレーニングを受けることが出来,そのうちの数名については実際に国際水準のメディエーターとして登録できるに至っている。この点については一定の成果を得たと考えている。
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