研究課題/領域番号 |
16H03620
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研究機関 | 新潟県立大学 |
研究代表者 |
若杉 隆平 新潟県立大学, 政策研究センター, 教授 (80191716)
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研究分担者 |
秋山 太郎 横浜国立大学, 大学院国際社会科学研究院, 教授 (40167854)
冨浦 英一 一橋大学, 大学院経済学研究科, 教授 (40273065)
佐藤 仁志 独立行政法人日本貿易振興機構アジア経済研究所, 開発研究センター, 上席主任調査研究員 (60466076)
椋 寛 学習院大学, 経済学部, 教授 (90365065)
伊藤 萬里 青山学院大学, 経済学部, 准教授 (40424212)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 企業異質性 / 労働市場 / 非正規雇用 / 賃金格差 / 外国人労働 / 地域貿易協定 / イノベーション |
研究実績の概要 |
グローバル化が賃金・雇用・企業の人的資源管理に与える影響に関連する先行研究のサーベイを行い、実証分析に必要なデータの収集・整理を行った。産業レベルデータに加え、ミクロデータでは経済産業省『企業活動基本調査』の企業レベルデータを分析可能な形にパネルデータ化を進めるとともに、貿易と雇用者数との関係などを記述統計的に分析し、実証分析の予備的作業を進めた。 雇用調整費用を、需要の不確実性に直面する企業の正規・非正規の二種類の労働需要についてモデルを構築し、貿易費用の低下、外国市場の拡大、海外アウトソーシングといった経済の国際化の影響について分析し、成果をディスカッションペーパーとして公開した。 企業の異質性や通商政策を考慮した最新の理論研究・実証研究をサーベイした書籍を執筆・編集し、出版した。また、技術採用による内生的な企業の異質性の発生と直接投資政策の関係や、企業の異質性と原産地規則の効果の関係の研究を深め、一部の論文は査読付き国際学術誌への掲載が決定している。 外国人労働者の受入れに関する個人の選好について、日本における個人レベルのミクロ・データを用いて計量分析を行った。先行研究でも取り上げられてきた業種、職種等だけでなく、行動経済学的な現状維持バイアスも統計的に有意な影響を与えていることから、個々人の心理的側面にも配慮した政策が必要であることが示唆された。 対外経済貿易大学と協力し、中国のUrban Household Expenditure Surveyの8省の個票データを利用して、2000年から2009年にかけての各省都市の家計の週当たり賃金、個人の賃金所得の分布を求め、中国の労働市場の変化を分析し、中国においても賃金格差の増大と労働市場の分極化が進展していることが示された。さらに、対外経済貿易大と共同で国際研究会議を開催した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
労働市場と国際貿易の関係について、既存研究をサーベイし、整理を行うとともに、賃金の水準が内生的に決定するもとでの企業間競争に関する基礎的な貿易モデルを構築することにより、独自の理論分析を行う準備を進めた。 雇用調整費用を明示的に取り込んで、貿易自由化による製品需要の弾力化やアウトソーシングによる労働費用の割合低下と企業レベルの雇用調整との相互関係について一定の理論的な分析結果を得ることができた。 グローバル化と賃金格差の関係を産業レベルデータにより分析することに着手するとともに、企業レベルのミクロデータに関する目的外利用の申請を行うことにより、想定よりも時間を要したものの、おおむね予定通りデータベースの構築を進めている。 外国人労働者の受入れに関する個人の政策選好についての日本の調査結果データを利用することができたので、貿易政策に対する支持と比較するなど、本研究における労働に関する分析をおおむね順調に進めている。 中国との国際共同研究によって、中国の個票データが利用可能となり、それを用いた労働市場の変化の分析により、中国においても先進国に類似した労働市場の構造変化が生じていることが確かめられ、理論モデルの構築上の大きな示唆が得られた。
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今後の研究の推進方策 |
これまでに構築した基本モデルを踏まえて、グローバル化・貿易政策がもたらす雇用・賃金変化に関する理論分析を進め、実証分析への適用を目指す。具体的には、産業間・産業内での雇用・賃金の差異、地域貿易政策の域外関税や原産地規則と労働市場の関係について分析を深める。 実証分析に際してはミクロ計量経済学の手法について複数の候補が考えられることから、最新の学術動向を見定めるため学会等の研究集会への参加を通じて情報収集を進め、組織の変化と労働移動についての分析枠組みの構築を目指す。 前年度に開発したモデルは企業の労働需要を分析対象としており、求職や職種選択といった労働供給側の意思決定は含んでいない。こうした供給側の意思決定を取り入れ、企業構築した企業レベルのパネルデータを元に、今後は記述統計分析に加え本研究課題の実証分析を進めていく。 外国人労働者の受入れに関する分析を更に深めるとともに、国内労働市場に影響を与える他のグローバル化関連の政策に対する個人の選好についても、同様のデータを用いて計量分析に着手する。 前年度の中国のデータによっても確認された賃金格差の増大・労働市場の分極化を踏まえ、このような変化を説明するイノベーションと労働市場の不完全性を取り入れた動学的モデルの構築を行い、さらにその成果を実証分析担当グループにフィードバックする。
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