研究課題/領域番号 |
16H03793
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研究機関 | 横浜国立大学 |
研究代表者 |
高木 まさき 横浜国立大学, 大学院教育学研究科, 教授 (40206727)
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研究分担者 |
泉 真由子 横浜国立大学, 大学院教育学研究科, 教授 (00401620)
野中 陽一 横浜国立大学, 大学院教育学研究科, 教授 (10243362)
脇本 健弘 横浜国立大学, 大学院教育学研究科, 准教授 (40633326)
両角 達男 横浜国立大学, 教育学部, 教授 (50324322)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 教員の資質・能力 / 教員養成スタンダード / 教員研修 / 躓き |
研究実績の概要 |
本研究は教員養成段階の学生・院生が教職に就き、3年次になるまでの資質・能力の成長と躓きに関する量的・質的調査を行っていく。大まかに言えば、学部時代のどのような経験が、後の教師としての成長につながるのか、若手時代のどのような経験や環境が、後にその教師の成長を促すのか明らかにする。また、その逆として躓きについても調査を行い、各年次で若手教員はどのような困難を経験し、どのように乗り越えていくのか、また、乗り越えるのが難しい困難とはどのようなものなのか明らかにする。そして、調査結果をもとに、教育委員会・大学が連携して大学での授業や教員研修の開発を行う。また、同じく調査結果をもとにスタンダードについても改訂を検討する。 今年度は、横浜市、神奈川県内の教員を対象にした3年間の継続調査の最終年度であり、年度末に調査を終えることが出来た(横浜市、神奈川県で実施時期等は異なる)。これまでの取り組んできた調査と同様に、①教師の成長に関する項目(スタンダードに関する効力感、キャリア意識、バーンアウト等)、②教師に対する支援の項目、③躓き(困難経験)・躓きを克服した方法(克服の具体的方法、誰の支援をうけたのか等)・克服できなかった躓きに関する項目、④リアリティショックに関する項目、⑤学び方に関する項目、⑥職場の文化や環境に関する項目(さらに横浜市ではメンターチームについても質問を行っている)などについて調査を行った。今年度は小中学校の教員に関して分析を行い、高校との比較検討を行ってきた。分析の途中経過については、日本教育工学会の研究会等で報告をした。また、これらの調査結果は横浜市の教員研修においても生かされており、研修の開発についても着手することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は昨年度の高校の分析に引きつづき、小中学校の教員のデータの分析を行った。特に、リアリティショック,バーンアウトや孤独感、困難に関する項目について分析を進めている。リアリティショックについては、小学校の初任教師の半数近くが、着任前に考えていた仕事と実際の仕事は異なっているという感覚を持っており、仕事量が多いと感じ、自分が必要だと思う仕事が思うように出来てない状況が浮かびあがってきた。中学校においても同様である。バーンアウトに関する分析では、小中学校共に半数を超える初任教師が疲弊している現状が明らかになった。特に、小学校では「教師を辞めたいと思うことがある」という設問に関して2割近くが「あてはまる」「ややあてはまる」と回答しており、早急な支援が必要であると考えられる。小中学校と高校との比較を行うと、高校も似た傾向にあり、教師の疲弊については,これまでも多くの指摘がなされてきたが、支援が必要であることが再認識された。困難経験に関しては、小学校は子どもの能力差や発問,学びの評価や教材研究,授業の組み立て・展開など、授業に関する課題をより抱えていることが明らかになった。中学校についても同じような傾向がある一方で、中学校では、教職員との人間関係を困難の1位に挙げている初任教師が一定数おり、しかもその解決度合いについても他の項目と比較して低く、昨年度分析した高校と同じように組織的な支援が求められる。その要因について、現段階で考えられる要因として、例えば、中学高校は教科担任制であり、1校の教師数も多く、小学校と比較して組織文化が異なることなども挙げられる。今後これらの項目について、さらに分析を進めていく。 また、これまでの分析結果をもとに、教員研修の開発に着手することができた。その成果は昨年度に引きつづき、横浜市の教員研修などにいかされている。来年度はさらに開発を進めていく。
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今後の研究の推進方策 |
新型コロナウイルスの感染拡大状況を受けて、研究開発の協力を得ている地元教育委員会(神奈川県教育委員会、横浜市教育委員会)の方針等により、今後の研究実施計画及び方法は流動的だが、本研究の最終年度として、以下のように研究の推進を考えている。 まず、調査については、今年度調査が完了したものの、最後の調査の実施が年度末であったため、来年度においても引きつづきその分析を進める。大学時代から経験2、3年次までのすべてのデータ(初任教師の成長(スタンダード、バーンアウト、組織適応等)、初任教師に対する支援、躓き(困難経験)、躓きの克服について(克服の具体的方法、誰の支援をうけたのか等)などをもとに、どのような教師が成長し、どのような教師が躓いているのか、支援や校内の文化・環境、本人の学び方など様々な要素について分析を行い、大学時代から初任者時代にかけての成長モデルの構築を試みる。 そのうえで、これら調査結果や今年度実施した研修の結果をもとに、より効果的な研修システムの開発を進め、その評価についても取り組む予定である。また、同じく調査結果をもとに、教員養成スタンダードや教育委員会の育成指標等の評価を行い、必要な場合には、当該教育委員会(神奈川県教育委員会、横浜市教育委員会)の育成指標等に修正案を提案したり、横浜国立大学教育学部、教職大学院のスタンダード等に修正案を提案したりすることも考えている。 なおこれらの成果については、適宜、日本教育工学会等を通して発信するとともに、国内の大学、行政等の研修に生かせるよう研究分担者等が各地で紹介するなどして成果の普及に努めていく。
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