研究課題/領域番号 |
16H04821
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研究機関 | 総合研究大学院大学 |
研究代表者 |
颯田 葉子 総合研究大学院大学, 先導科学研究科, 教授 (20222010)
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研究分担者 |
早川 敏之 九州大学, 基幹教育院, 准教授 (80418681)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 人類進化 / 脳機能 / 環境適応 / 出アフリカ / 正の自然選択 |
研究実績の概要 |
現生人類は20万年ほど前にアフリカ大陸で誕生後、およそ5~8万年前に全世界へとその生息域を広げた。これに伴い、洞窟の壁画、遺跡から発掘される装飾品や石器などに見られるように、ヒトは文化や技術の面で大きな発展を遂げた。この文化的・技術的な発展には、ヒトの脳機能の大きな亢進がともなっていることは想像に難くない。統合失調症は認知や思考の障害であり、その発症に関わる遺伝子は、そのようなヒトの脳機能の亢進に関わると考えられる。そこで本研究では、最近大規模関連解析で同定された統合失調症に関連する128個のSNPを対象に、SNP周辺領域の多型を調べることで、ヒトの脳機能の亢進に関与したと思われる遺伝子を検出し、その適応的役割を明らかにする。これらのSNPのリスク型について調べてみると、128個の内およそ半数の60個のSNPでリスク型が祖先型であることがわかった。このことは、統合失調症に対するリスクが、ヒト系統特異的である(人の文化の発展と相関している)ことを示しており、非リスク型は現在も正の自然選択の標的である可能性を示している。 このようなSNPの中から、正の自然選択の標的となっているものを検出する必要があるが、正の自然選択の標的の検出には様々な方法が考案されており、大きく次の三つのカテゴリーに分類される。1)SFSに代表される頻度情報を利用する方法、2)EHHやROHに代表される連鎖不平衡を用いた解析法 3)Fstに代表される集団間の分化の程度を指標にした方法である。この三つのカテゴリーそれぞれに含まれる代表的な方法を統合失調症との関連が指摘されているSTX(シアル酸転移酵素)遺伝子のプロモータ領域のSNPに適応し、SFSが正の自然選択のfirst screeningには適していることを明らかにした。今後は、SFS以外の方法(主にROH解析)との整合性も検討し、非リスク型に正の自然選択が働き始めて時間の推定などを行う。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成28年度は、 自然選択の検出方法のパワーの比較を行い、平成29年度以降の解析の方針を決定した。
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今後の研究の推進方策 |
128SNPについて、SFS解析で標的であることがあきらかになった非リスク型SNPについて、1000人ゲノムのメタ集団のデータを用いて、標的と示唆されたSNPを中心に上・下流およそ100kbの領域についてホモ接合のSNPの連続性を調べるROH解析を行う。各集団でのROH解析の結果の有意性については、ヒトの出アフリカ以降の歴史(集団サイズの変遷や集団間の個体の移住)を反映させたコンピュータシミュレーションや、ROHの経験分布との比較により検討する。この際、当該SNPと近傍のSNP間の組換え率を連鎖不平衡のデータを利用して推定し、コンピュータシミュレーションに反映させる。さらに、ROH解析により得られる連続するホモ接合の長さははコアとなるSNPの頻度に強く依存するので、コンピュータシミュレーション、経験分布ともに観察値のSNPの頻度を取り入れた解析を行う。さらに、非リスク型に正の自然選択が働き始めた時期をROHの分布をもとに推定する。、 また128SNPの幾つかについては、染色体の高次構造(TAD: Topologically Associating Domain)との関連から他の遺伝子の発現を制御している可能性も指摘されている。TADにより関連付けられる当該SNPにより発現制御を受けている可能性のある標的遺伝子についても、同様に、SFSやROHの解析を通して自然選択の可能性を探り、遺伝子の発現制御ネットワークに働く自然選択を検出する。
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