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2017 年度 実績報告書

ヒトの精神活動に関わる遺伝子の進化と集団遺伝学

研究課題

研究課題/領域番号 16H04821
研究機関総合研究大学院大学

研究代表者

颯田 葉子  総合研究大学院大学, 先導科学研究科, 教授 (20222010)

研究分担者 早川 敏之  九州大学, 基幹教育院, 准教授 (80418681)
研究期間 (年度) 2016-04-01 – 2019-03-31
キーワード統合失調症関連遺伝子座 / 正の自然選択 / DNA多型解析 / リスク型SNP / 祖先型及び派生型SNP
研究実績の概要

平成29年度に新たに開発した統計量(Fc)を用いて以下の2つのプロジェクトを遂行した。

1)ヒトシアル酸転移酵素(ST8SIA2)について、これまで統合失調症と関連すると指摘されている3つのSNPはST8SIA2のプロモター領域に存在する。この3SNPから構成される4種のプロモータイプ(TGT,TCT,CGC,CGT)がヒト集団ではmajor typeである。このうち、CGCタイプのみ統合失調症の非リスク型としてしられてきた。CGCタイプは特に東アジア集団でその頻度が高い。Fc統計量により、このCGCタイプに正の自然選択が働いていることを示した。また、このCGCタイプは、他の3種類のプロモータタイプと比較して、有意にプロモータ活性が低いことが示された。このプロモータ活性が自然選択のターゲットとなった生物学的意義かもしれない。また、この自然選択が働き始めたのは、今から2~3万年前と推定され、この選択は、最終氷期とともに人の集団の移動・交雑が起きたこととも関連していると思われる。(国際誌に結果を投稿中)

2)大規模なGWAS(Genome-Wide Association Study)により統合失調症発症と関連するとされるSNPが108の遺伝子座で同定されている。これらのSNPの内、Fc統計量により32遺伝子座のSNPで自然選択を検出した。これらのSNPは、祖先型ー非リスク型、祖先型ーリスク型、派生型ー非リスク型、派生型ーリスク型の4つの分類群に分けられる。当初は、祖先型、派生型を問わず、非リスク型が正の自然選択の標的となると予測したが、実際に正の自然選択の標的となったSNPを分類してみると、祖先型、派生型を問わずリスク型が正の自然選択の標的となった例が、複数見出された。また、東アジア、ヨーロッパ、アフリカのメタ集団では正の自然選択の標的になるSNPが異なっており、3つのメタ集団に共通な自然選択の標的になるSNPは一つしか、検出されなかった。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

本年度は、正の自然選択を効率よく検出する方法を開発し、その方法論を現在国際誌に投稿中である。この方法を用いて、統合失調症関連のST8SIA2遺伝子座のプロモーター領域における非リスク型SNPに正の自然選択が働いていることを示した。一方、大規模GWAS解析の結果、統合失調症の発症に関連すると推測される108遺伝子座のうち、32遺伝子座のSNPに自然選択の痕跡を見出した。ただ、これらのSNPの多くは、非リスク型であったが、複数、リスク型でありながら正の自然選択の標的であることを示すものも含まれており、これらのリスク型SNPが、どうのような生物学的意義を持つのか、またどのように集団中に維持されているのかを明らかにすることが今後必要となってくる。

今後の研究の推進方策

平成29年度の解析から明らかになった、自然選択の標的となっていると示唆される32遺伝子座のSNPの内、1)リスク型が正の自然選択の標的となったSNPの解析と2)3つのメタ集団(アフリカ、アジア、ヨーロッパ)で共通に検出されたSNPの解析の2点に焦点を当て研究を遂行する。
1)リスク型が正の自然選択の標的となったSNPの解析
i) リスク型が正の自然選択の標的として検出されたのは、過去に働いた正の自然選択を検出している可能性がある。そこで、過去に働いた自然選択と、現在進行中の自然選択をDNA多型から区別できるかどうか、そのための方法論も含めて、検討する。そのために必要な基礎的なコンピュータシミュレーションは平成29年度末から実施している。
ii) リスク型が正の自然選択の標的として検出された理由として、遺伝子の機能の多面性を反映して、別の生物学的側面が適応的であるという可能性も否定できない。実際、高血圧の非リスク型のSNPと統合失調症のリスク型SNPが強い連鎖不平衡にあり、統合失調症のリスク型SNPに正の自然選択の selective sweepが検出された例が報告されている。そこで、リスク型が正の自然選択の標的として検出された遺伝子座及びその遺伝子座と強い連鎖関係にある近傍の遺伝子座の機能や統合失調症以外の疾病に関与している可能性などについて、文献等の検索を中心に調べる。
2)3つのメタ集団(アフリカ、アジア、ヨーロッパ)で共通に検出されたSNPの解析
このSNPでは、アフリカと東アジアでは、派生型ーリスク型に、ヨーロッパでは祖先型ー非リスク型にそれぞれ、正の自然選択のシグナルが検出された。それぞれのメタ集団でのこのSNP周辺のDNA多型を調べることで、この遺伝子が集団で維持されてきた歴史を明らかにするとともに、その機能を探り統合失調症との関連を考察する。

  • 研究成果

    (5件)

すべて 2018 2017

すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (4件) (うち国際学会 3件)

  • [雑誌論文] Non-equilibrium neutral theory for hitchhikers2018

    • 著者名/発表者名
      Yoko Satta, Naoko Fujito, Naoyuki Takahata
    • 雑誌名

      Molecular Biology and Evolution

      巻: - ページ: -

    • DOI

      -

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [学会発表] Adaptive evolution of mental activity-related STX gene in the out-of-Africa migration2017

    • 著者名/発表者名
      Fujito N, Satta Y, Hane M, Matsui A, Yashima K, Kitajima K, Sato C, Takahata N, Hayakawa T
    • 学会等名
      The biology of genomes,
    • 国際学会
  • [学会発表] Adaptive evolution of mental activity-related STX gene in the out-of-Africa migration.2017

    • 著者名/発表者名
      Fujito N, Satta Y, Hane M, Matsui A, Yashima K, Kitajima K, Sato C, Takahata N, Hayakawa T
    • 学会等名
      Society for Molecular Biology and Evolution Meeting 2017
    • 国際学会
  • [学会発表] Adaptive evolution of mental activity-related STX gene in the out-of-Africa migration2017

    • 著者名/発表者名
      Fujito N, Satta Y, Hane M, Matsui A, Yashima K, Kitajima K, Sato C, Takahata N, Hayakawa T:
    • 学会等名
      International Symposium on Evolutionary Genomics and Bioinformatics (ISEGB) 2017
    • 国際学会
  • [学会発表] 現生人類での精神活動関連遺伝子の進化:シアル酸転移酵素STXの低活性化による東アジア集団での適応2017

    • 著者名/発表者名
      藤戸尚子、颯田葉子、羽根正弥、松井淳、八島健太、北島健、佐藤ちひろ、高畑尚之、早川敏之
    • 学会等名
      日本進化学会第19回大会

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公開日: 2018-12-17  

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