研究課題/領域番号 |
16H04835
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研究機関 | 首都大学東京 |
研究代表者 |
村上 哲明 首都大学東京, 理工学研究科, 教授 (60192770)
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研究分担者 |
山本 薫 横須賀市自然・人文博物館, その他部局等, 学芸員 (00766016)
海老原 淳 独立行政法人国立科学博物館, 植物研究部, 研究主幹 (20435738)
高宮 正之 熊本大学, 大学院先端科学研究部(基礎科学), 教授 (70179555)
綿野 泰行 千葉大学, 大学院理学研究科, 教授 (70192820)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 遺伝的多様性 / 無性生殖 / 無配生殖 / シダ植物 / 網状進化 |
研究実績の概要 |
平成28年度は本研究の初年度であったので、まず、オシダ用の核DNAマーカーの開発を試みた。イタチシダ類の2倍体有性生殖種から抽出した全RNAを次世代シーケンサー(Illumina)で解析を試みたが、目的遺伝子であるアロザイム多型解析に用いられる酵素遺伝子の塩基配列は期待されたほど拾うことが出来なかった。しかしそれ以外のシングルコピーと思われるシロイヌナズナとの相同遺伝子の塩基配列は100遺伝子座ほど得られたので、まずはそこから50-60遺伝子を候補としてプライマーを設計した。ところがPCRが確実に成功すると考えられたのは30ほどであり、しかもそれらは多型に乏しくイタチシダ類各種(ナンカイイタチシダ、イワイタチシダ、モトイタチシダ)やベニシダ類各種(タカサゴシダ、ハチジョウベニシダ、マルバベニシダなど)が識別できる領域はなかった。そこで、野生植物のRNA塩基配列データベース1KP Projectに登録されたPolystichun acrostichoides(オシダ科イノデ属)の情報も活用し、結果的にアロザイム多型解析に用いられる酵素遺伝子を初めとする複数の核DNAマーカーを開発することが出来た。 さらに、これら複数の核DNAマーカーを用いて、無配生殖種複合体であるイタチシダ類の核ゲノム構成の解析を行うこともできた。その結果、イタチシダ類では、どの核マーカーで見ても、それぞれの対立遺伝子が由来した3種の有性生殖の組み合わせは同じであった。これは、分離や組換えが全く起こっていないことを強く示唆ししている。言い換えると、無配生殖種が有性生殖種との交雑を通じて後者のゲノムを取り込む過程が少なくとも実質的には2回までしか起こっていないことを意味し、非常に興味深い結果である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
核DNAマーカーの開発では,当初予定していたようには進まずに,マーカーの開発方法を多少変えることにはなった。また、実際に設計したマーカーの多くが期待したようにはPCR増幅されなかったりもした。しかし、オシダ科のシダ植物の解析に有用な核DNAマーカーを複数開発することには成功したし、それらのマーカーを用いてオシダ科の無配生殖複合体の一つであるイタチシダ類各種のゲノム構成を解明することもできた。さらに、複数の核マーカーを用いたイタチシダ類を解析できたことで、上述したように興味深い結果も得られ始めているからである。
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今後の研究の推進方策 |
今年度は、核DNAマーカー候補の各核遺伝子座について、それぞれ1つのイントロンを適当に選んでプライマーを設計したので、多型のある箇所を見逃している可能性が高い。つまり、今年度調べたイントロンに多型が見られなくても、他のイントロン部には多型が存在している可能性は十分考えられるからである。ほとんどのイワイタチシダ、Polystichun acrostichoidesとシロイヌナズナとの相同核遺伝子座において、イントロンは5~6か所、多いもので10か所程度存在していたので、丁寧に他のイントロンについても多型を探せばもっと多くの核マーカーを開発できると期待される。来年度もそのような解析を続けて、さしあたって、さらにもう10個程度の核DNAは設計したい。 これらのマーカーは、オシダ科オシダ属に含まれるイタチシダ類、ベニシダ類、イワヘゴ類の全てで有効なものが少なくないと考えられる。来年度は、イタチシダ類に加えて、今年度に植物材料をかなり集めることが出来たベニシダ類についても、是非、同様の核ゲノム構成を明らかにする研究を進めたい。
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