研究課題
イネ種子の胚乳は、主に、内部のデンプン性胚乳(SE)と最外層(基本的に1細胞層)にあるアリューロン(AL)層から構成されている。胚乳の発達に伴いその最外層細胞は、垂層分裂と並層分裂の両方を行う。前者は等分裂であるが、後者では生じた娘細胞のうち内側に配置されたものはSEに分化する運命をもつが、外側娘細胞は同じ性質を保ちALに分化していく。本研究では、申請者が新規に同定したALが複層化する変異体aal1、ならびにALがSE部位に異所分化する変異体aal2について詳細な解析を行い、イネ胚乳の細胞分化制御の分子メカニズムを明らかにすることを目的としている。28年度は両変異体の原因遺伝子の同定を中心に解析を進めた。aal1については、計画開始時点で第6染色体の約430kbの領域に絞り込んでいたが、28年度は次世代シーケンサ(NGS)を用いたMutMap法による最終絞り込みを行った。このようにして絞り込まれた原因遺伝子候補は、プラスチド内遺伝子発現に関与するタンパク質をコードしていた。これは、aal1変異をホモに持つ個体の葉が若いステージにおいてクロロフィルを欠損するという表現型に合致し、胚乳細胞の分化にレトログレードシグナリングが関与する可能性を示唆する極めて興味深い結果である。原因遺伝子の最終同定のために、CRISPR/CAS9法を用いて同遺伝子の機能喪失変異体を作成したところ、aal1変異体の植物体における表現型が再現された。胚乳の形質の調査には至らなかったが、この結果によりaal1変異の原因遺伝子がほぼ特定されたといえる。aal2についても、マッピングとNGSを用いた解析を進め、原因遺伝子の候補を1つに絞り込んだ。この遺伝子はRNA代謝への関与が示唆されるタンパク質をコードしていた。CRISPR/CAS9法による最終同定のための形質転換を進めている。
2: おおむね順調に進展している
28年度の主要な計画であるaal1およびaal2変異体の原因遺伝子の同定が順調に進み、次の段階の解析に向けた準備が整った。
同定したaal1およびaal2変異体の原因遺伝子がコードするタンパク室の分子機能と変異体の表現型との関係性を明らかにするための実験を当初計画にのっとり順次進めていく。
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