研究実績の概要 |
ブドウの成熟に及ぼすIPT(イソプロチオラン:イネいもち病防除剤)およびNDGA(ABA生合成抑制剤)の影響を検討した。IPTおよびNDGA処理はブドウ果皮のクロロフィル減少を抑制した。次世代シーケンサー(NGS)を供試したトランスクリプトーム解析の結果、無処理区と比較してIPT処理区では2218遺伝子、またNDGA処理区では2270遺伝子の発現についての相違が認められた。IPT およびNDGA処理は植物ホルモンであるアブシシン酸(ABA)、オーキシンおよびエチレン代謝を制御した。これらの植物ホルモンはいずれも植物の老化に関与する物質である。MapMan解析およびqRT-PCR解析は、ABA代謝経路上でのネオキサンチン酸化開裂酵素遺伝子(VvNCED1:ABA合成に関連するの鍵遺伝子),VvCYP707A1(ABA水酸化酵素遺伝子:ABAの代謝に関連), VvAAO4およびVvGEM様遺伝子がIPTおよびNDGA処理により同様に負に制御されることを示した。さらにIPTおよびNDGA処理は糖代謝経路上のVvSUS, VvAI, VvHT遺伝子を経由して、ブドウの主要な糖であるグルコース代謝を抑制した。さらに、IPTおよびNDGA処理はVvLOX, VvADH, VvGPPS, VvTPSのような香気成分代謝経路上の遺伝子発現を抑制し、香気成分合成も阻害した。これらの結果はIPTおよびNDGA処理が成熟過程において、クロロフィル発現、ABA蓄積、糖合成、および香気成分合成に影響することを示唆する。ブドウは貯蔵性が高くない果実であるがIPTあるいはNDGAの利用により、今後ブドウの貯蔵性を高める技術としての可能性が示唆された。
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