研究課題/領域番号 |
16H04960
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研究機関 | 東京海洋大学 |
研究代表者 |
荒川 久幸 東京海洋大学, 学術研究院, 教授 (40242325)
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研究分担者 |
鈴木 秀和 東京海洋大学, 学術研究院, 教授 (90432062)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 放射性セシウム / 底質 / 微細藻類 / 移行 |
研究実績の概要 |
福島第一原子力発電所から海域に放出された放射性物質の濃度は事故後の時間経過とともに著しく低下した。現在では海底の粒子や底生の微細藻類で放射性Csの濃度が高い。本研究では底質から微細藻類への移行過程を把握することを目的としており、①底生微細藻類へのCsの移行経路解明、②微細藻類への移行量、および③微細藻類起源の放射性Csの生態系への拡散過程の検討で構成されている。そこで当該年度では、福島県小名浜港湾および松川浦に調査点を設定し、底質、底質中の間隙水、底層水および底生微細藻類の放射性Cs濃度の存在比を調査した。同時に底生微細藻類の種組成と季節変化を調べた。 ①では、松川浦および小名浜港で調査を行った結果、海底の粒子、間隙水、および海水ともに松川浦で高かった。また間隙水の放射性Cs濃度は海水の6-8倍であった。海底の粒子の放射性Cs濃度は間隙水の10倍程度であった。 一方、底生微細藻類の組成は、松川浦および小名浜で優占種がみられた。前者ではNavicura gregaria, Berkeleya rutilansであり、後者ではParlibellus sp.であった。明瞭な季節変化については調査途中である。さらに海底曳航型の放射線センサーを利用して、松川浦の底質の放射性Cs濃度分布および微細藻類を含む有機物の分布について検討するデータを収集できた。 ②では、両海域の優占種について簡易培養を進めているところであり、培養実験の準備中のため、結果は得られていない。 ③では、低次の無脊椎動物としてキシエビを選定し、曳網のデータから生態学的半減期を推定し、飼育実験データから生物学的半減期を推定した。これらの結果をもとにコンパートメントモデルに当てはめ、減少傾向を検討中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
小名浜港および松川浦の現場調査は順調に継続されている。また底生微細藻類の優占種が明らかになったことから、予備培養が開始され、同時に室内実験による移行量の調査の準備中である。さらに微細藻類(もしくは底質中の有機物)が捕食者にどの程度利用されるか検討を進めている。これらのことから、進捗はおおむね順調と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
底生微細藻類へのCsの移行経路の解明に関しては、3か月おきに現場で試料の採集を行い、周年の調査を継続して行う。 微細藻類への移行量に関しては以下のように室内実験を行う。季節ごとの優占種の培養を行う。実験水槽に粒子汚染区および間隙水汚染区を作製する。粒子汚染区として、放射性Cs濃度既知の海底粒子(四倉沖採取、滅菌処理済み、有機物除去酸処理済み)を敷き詰め、人工海水を溜める。一方、間隙水汚染区として、放射性Csが検出されない底質を敷き詰め、間隙水に異なる放射性Cs濃度の海水を用意し、その上から人工海水を満たす。底質および間隙水の放射性Cs濃度の設定を変え、それぞれからの移行について検討する。この時、照度は一定とし、水温は優占種が繁茂する温度とする。1か月間培養を継続し、微細藻類、底質、海水および間隙水のそれぞれの放射性Cs濃度を計測する。 生態系への拡散過程に関しては、コンパートメントモデルの完成度を高める。このことにより、現場の底生微細藻類が低次生物(キシエビ)へ取り込まれる量を概算する。
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