研究課題
脂肪酸代謝は、細胞の増殖、分化、アポトーシスなどの調節、各組織の構造と機能の恒常性維持に極めて重要な役割をもつ。Elovl6は生体内で最も組成割合の多い炭素数16と18の飽和脂肪酸および一価不飽和脂肪酸の合成を触媒する。SCD1は、飽和脂肪酸を一価不飽和脂肪酸に変換する酵素で、パルミチン酸 (C16:0)をパルミトレイン酸 (C16:1)に、ステアリン酸 (C18:0)をオレイン酸 (C18:1)に変換する。ヒト大動脈由来血管平滑筋細胞においてElovl6の発現をsiRNAによりノックダウン(Elovl6枯渇)させると、細胞の増殖活性が著明に抑制されるともに平滑筋マーカーが減少することを見出した。また、Elovl6枯渇細胞では、細胞の初期化を誘導する因子の一つで、Krüppelファミリーに属する転写因子KLF4が著増した。KLF4はMyocardinによる平滑筋分化誘導を抑制する機能をもつことからElovl6枯渇細胞でのSMC分化マーカーの発現低下はKLF4の発現誘導によると考えられる。脂質代謝の変化が細胞の増殖と分化に重要なKLF4の誘導刺激となることは大きな発見である。私たちは、Elovl6枯渇細胞での増殖に関わる種々の蛋白の発現をウエスタンブロットで解析した。その結果、エネルギーセンサーとして機能するAMP-activated protein kinase (AMPK)の活性増加、細胞増殖抑制因子p53やp21の発現増加、蛋白合成を促進するmTORの発現低下を見出した。また、AMPKを直接に活性化するAICARによるKLF4の発現誘導、AMPK抑制剤compound CがElovl6枯渇によるKLF4発現誘導を完全に消失させることを見出した。Elovl6を枯渇させたVSMCではAMPKの活性化が起こり、それによってKLF4の発現が誘導され、VSMC分化マーカーの発現低下と増殖能の抑制が起こることが明らかになった。
2: おおむね順調に進展している
順調に進行している。
研究計画の変更はない。
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Cardiovasc Res.
巻: 印刷中 ページ: 印刷中
10.1093/cvr/cvy063
Metabolism
巻: 77 ページ: 47-57
10.1016/j.metabol.2017.09.003.