肥満、糖尿病およびメタボリック症候群(MetS)に合併する動脈硬化に脂肪酸代謝が重要な役割を持つことは基礎および臨床研究から明白であるが、その分子メカニズムを明らかにするためには、脂肪酸代謝酵素の欠損モデルマウスでの検討やメタボローム解析での網羅的な検討が必要である。 脂肪酸の鎖長伸長反応を触媒するElovl6 の欠損マウスや欠損細胞を用いて、脂肪酸組成の変化がSMCの形質に与える影響を解析した。その結果、①Elovl6 欠損マウスでは血管傷害後の新生内膜形成が著明に抑制されること、②培養ヒト大動脈SMC 中のElovl6 発現をノックダウンさせるとPDGF に対する反応性が完全に消失すること、③SMC マーカー(平滑筋α アクチンやSM22α)の発現が抑制されること、④エネルギーセンサーとして機能するAMP-activated protein kinase (AMPK)が強力に活性化すること、⑤Elovl6 欠損SMC では細胞リプログラミング因子であるKLF4 の発現が著明に誘導されることを見出した。こうした結果はSMC 内の脂肪酸組成が細胞の分化や増殖の調節に大きな役割を持つことを示している。また、AMPKの活性化が KLF4の活性化を誘導するという を誘導することも見出した。この発見は、脂肪酸のクオリティが細胞増殖・分化という運命を決定するという示唆を与えるものである。
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