研究課題
本研究の目的は、新規に合成した超分子薬剤の全身投与によって、継続的に内膜肥厚ならびに動脈硬化症に起因する疾患を薬物治療する新規治療戦略を確立することにある。具体的には(1)環状構造を有する疎水性低分子薬剤・ラパマイシン等のナノメーターサイズの空間空隙を生体適合性高分子化合物で縫い合わせる分子縫合技術を確立し、この技術によってポリロタキサン様の構造を有する新規水溶性超分子医薬を開発する。さらに(2)これらの新規薬剤の全身投与によって内膜肥厚や動脈硬化症に起因する疾患など、これまでに臨床に於いて継続的な薬物治療が皆無もしくは効果を示していない心臓・血管疾患に対して革新的な治療戦略を提供することを目的とする。本年度は、昨年度までに合成したポリエチレングリコールとラパマイシンから構成されるロタキサン様の新規超分子薬剤が水中で自己組織化し、ミセルを形成することを見出した。散乱光強度計測を用いて、この薬剤内包ミセルの生理的条件下に於ける安定性を確認しところ、粒径、散乱強度ともに長期間安定であり、生化学的な実験に対応可能であると判断した。中膜平滑筋細胞株(vascular smooth muscle cell: VSMC)を用いた細胞増殖抑制試験では、コントロールと比較して細胞増殖を優位に抑制することが明らかとなった。また、エラスターゼ誘導腹部大動脈瘤ラットモデルに対して全身投与した場合には、PBS投与群と比較して大動脈径拡大を抑制する傾向が確認されている。
2: おおむね順調に進展している
新規超分子薬剤に関しては、水中でナノサイズのミセルになる新しい展開を見出している。また、腹部大動脈瘤に関する薬効も一部確認されており、今後の進展が期待できる。
超分子薬剤のキャラクタリゼーションについては、これまでの核磁気共鳴スペクトル、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー、光散乱測定の他にも各種分光学的手法を用いて詳細に解析する。さらに疾患モデルを用いた実験では、最適投与量・スケジュールなどを明らかにするとともに、作用機序に関する考究も併せて実施する。
すべて 2017 その他
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件) 学会発表 (4件) (うち国際学会 2件) 備考 (1件)
Journal of Pharmaceutical Sciences
巻: 106 ページ: 2438-2446
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Journal of Controlled Release
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http://www.bmc.t.u-tokyo.ac.jp/